第38話

その後、田中さんからまさかの無料で目的の物を手に入れた俺は店の余っているダンボールを貰い、その中に物を入れて運ぶことにした。

意外にも化石は余り重くはなく頑丈だった為、田中さんがアンジーさんに店を任せて車で家の前まで送ってくれた。

そしてマンションの前まで送って貰った俺は田中さんが見えなくなるまで頭を下げ、人影のない場所まで行ってから拠点にダンボールごと回収、そのままの足でコンビニに向かう。理由はお金を下ろす為である。


「マジで田中さんには頭が上がらないわ、いつかキチンと恩返しをしよう」


俺があの人達から武器や化石を買ったのには理由があるのだ。

そもそも、俺の今まで作ってきた物は回復薬を除き殆ど現実である物に似た、もしくはそのまんまの物を参考にして設計図やレシピを元に制作していた。

しかし、俺には一部作れない物がある。

それは『連結する物』、つまりは多節棍や今回手に入れた蛇腹剣みたいなヤツだ。

理由は簡単、構造が分からないから。

構造の知識が無い状態で設計図通りに作っても一度でも剣から変わったら元には戻らなくなってしまうのだ。

だから今回、実物を買って検査して原付の時と同じ感じで設計図を手に入れたかったのである。


「蛇腹剣、手に入って本当に良かった」


この世界で蛇腹剣は中層と深層で宝箱を見つける以外の入手方法が無い。

よって希少価値が高く値段が高い。

この世界の武器市場にごく稀に出回る新品のロングソード形の蛇腹剣の値段は最低2億、もし使用済みの中古でも最低8500万だ。

理由は武器として使う人の他に配信映えすると言う理由で欲する人、俺みたいに武器の構造を知ろうとする人や展示品として欲する人と様々だからだ。つまり需要と供給が合っていないから高い。

ただ今回手に入れたナイフ形の蛇腹剣はアンディーさんがモンスターを解体するのに使用した為中古品扱いなのと、元々ナイフ型は取り扱いが難しい点や刃が短いから振っても配信映えしない点でロングソードよりは人気がなく、金額も新品で4000万が基本なのだ。

だから安いと思っていたので正直あの金額は驚いた。


「化石は…まあ、ロマンだよな」


田中さん達がギルドに持ち込んだ時に調べられたのだが、深層の龍のモンスターの骨としか分からなかった。つまりこの化石は謎が溢れているロマンの塊であり、完全に俺の都合で欲しかったのだ。

実は俺の思い入れのある武器の材料にこの化石でを使おうと考えたのだが…まあ、検査結果によって使用用途は変えるつもりだ。

とりあえず調べない事には何も分からない。


「とりあえず、今は検査待ちだ。

動くのはそれからでも遅く無い、お金もあるのなら次に必要な物を買いに行かなと…」


俺がそう言うと不意にスマホに着信が入る。名前を見ると、



「…え、『大神 大吾』って大神さん?」


まさかの大神さんだった。


「もしかして依頼の件かな?」 


俺はそう思い、電話を取る。


「もしもし、佐藤です。大神さん、どうされましたか?」


俺がそう言うが、帰ってきたのはあのバリトンボイスではなく…


《あの、私です。優香です》


まさかの鈴みたいな声だった。


〜12月 7日 夜 銀座 銀座駅ダンジョン内〜


『ギャオッ!』


『ッオオ!』


「夜は…ヤバかったか?」


夜のダンジョンの丘の一角で俺はそう呟いていると、俺の前と後ろから2匹のヴェロルが俺に向かって突撃を仕掛けてくる…が、


「すまん」


俺は両手に持っていたチョッパーの鋸刃を前の1匹の脳天目掛けて振り下ろす。


「オラッ!」


『グぅ!?』


ズドンッと脳天に振り下ろされた斧の一撃で1匹目のヴェロルは絶命、頭がスプラッターな事になる。


『クッ!』


ダッ


後ろの2匹目が振り下ろし切った俺にめがけて飛びかかるためにジャンプする。


「…」


しかし俺は焦らずにそのまま横にズレる様に体を回転、そして数秒後に俺の居た場所にヴェロルが足から落ちてくる。


『!?』


「もう、出し惜しみはしないって決めたんだよ!」


俺はそのまま相手の首の位置を確認して両腕のチョッパーの稼働機構を動かして、


ブロロロロロッ!


『ギァアアアアア!』


ブシャーッ!


相手の首に回転する刃を深く押し込んで削る様にその命を奪いに行く。


『アアアアアァァッァァ…』


2匹目のヴェロルも叫び声が次第に聞こえなくなり、遂に俺が押し当てていた反対側に倒れ絶命した。


「ふう、慢心ダメ絶対」


俺はそのままチョッパーの機構を解除、持ち手が動かない事を確認してから周りを見る。


「うわ…夜だと更にスプラッタ光景だわ。本当に訓練してよかった」


俺の周りは月明かりに照らされていて薄暗い、そしてそこにはヴェロルの死体があちらこちら、その数は17匹のヴェロルの死体が転がっている。そしてその中心で月明かりに照らされているI♡狩りシリーズにあの頃より使いやすく改修し、ハンドルを回す機構からボタン一つで動くようにした双斧のチョッパーを両手に持った血まみれの俺。


「うん、自分でやっておきながらなんてB級ホラーみたいな光景だよ」


取り敢えずこのスプラッターな光景から原因の死体を回収に動き出す。


「血まみれ…川は…よし、近くにあるな」


そう言いながらヴェロルの死体を回収しつつ体の血を気にして覚えている地図から川の位置を確認する。何故なら…


「これから優香さんに会わないといけないのに血まみれとかヤバいよな」


これからあの滝の洞窟の帰還用ポータルで優香さんと会う約束をしているからである。

……てか今更だかダンジョンで待ち合わせとか、俺はアホか…




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