第36話

ジョブが『超能力者』の人は世界で10人しかいない。

『超能力』のジョブは物や人を動かしたり浮かしたり、壁や床を通り抜けたりと意外と凄い力が使えるジョブである。

アンジーさんは生まれはアメリカだが母親の再婚を機に日本に来たらしい、そして5歳から7歳まで自宅で引きこもっていたとも言っていた。

理由は激レアのジョブである彼女を狙う人たちによる誘拐にあったからである。

しかし、7歳の夏に自宅のマンションの隣に田中さんが引っ越してきたと言っていた。


「あの時は凄かったねー、『筋肉が泣いているのはここか!』とか言ってマンションの壁を破壊して私の部屋に入ってきたもんね♪」


「うむ、いい思い出だ!!」ビシッ


その後、田中さんがボディーガードをしていつも一緒にいる様になって2年後にようやく普通の生活送れるようになった、その後はお察しの通りだ。

なお、彼女の声が何故あの時に海パンからしたかと言うと彼女のスキルが『裁縫』と『憑依』だからだ。

裁縫は言葉そのまま裁縫が上手くなるスキルで、『憑依』は自分の体毛を入れた物に魂を憑依させるスキルなのだ。

つまり彼女はあの日、彼に自分の体毛を入れた海パンを渡して田中さんと一緒にダンジョンに来ていたのだ。

理由は彼女が妊娠7か月でお腹の赤ちゃんが危険なためダンジョンには行けない、だが田中さんのダンジョンでのサポートが出来ないのが嫌だと言って両方納得の案としてああなったらしい。

因みに『憑依』をした場合、肉体は睡眠状態になっていて起こされると憑依が解ける仕様なのだそうだ。


「健ちゃん、渉ちゃんを怒るのはまた今度でいいよね?今日は《アレ》をしに来たんだよ?」


「うむ…そうだな」


田中さんはアンジーさんの言葉に落ち着いたのかポーズをやめて話し出す。


「アンジー、すまないがアレを持ってきてはくれないか?」


「おけおけ、おけまる―♪」


田中さんがアンジーさんにそう言うとアンジーさんは空中でターンを決めるとそのまま床の中に消えていった。どうやら例の物は床の中に隠してあるらしい。


「すみません、特殊ダンジョンの件は他言無用でお願いします。契約内容にも違反しますので」


俺がそう言うと田中さんはその場で頭を掻き始めた。


「まったく、アレを欲しいって言ってきた時は正気かと思ったがそんな理由なら納得だな…」


田中さんがそう言う言うと同時にアンジーさんが床からイルカの様に飛び出してきた。そして彼女の手には紐が握られていて彼女の後を追うように紐で繋がれた5つのアタッシュケースが床から出てくる。

アタッシュケースの全てに指紋認証の機械と12桁の物理的な錠が付いていおり、そしてアタッシュケースにはダンジョンギルドのロゴが付いている。


「持ってきたよ、『深層の宝箱からでた武器と《アレ》』♪」


そう、今日の目的はこれだ。

宝箱の中身の所有権は見つけた人の物なのだが持ち帰った際には一回ギルドに預ける規則なのだ、理由は危険物の可能性の有無と盗難防止のためである。

その後にギルドからそのまま売るか所持するかを選択できるのだが所持する場合は目の前にあるアタッシュケースに保存して渡されるのだ。

そしてその後の中身の使い方に関してはギルドにアタッシュケースを返す以外はギルドは干渉しない、つまり個人の売買においては個人の責任になるのだ。

だから所持を選択した人は資産として受け取るのが基本だ。だがこのアタッシュケースを狙った窃盗団などの犯罪者グループなどもいるので管理も自分で行わなければならないので所持するのも注意が必要なのだ。

今回は俺が以前アンジーさんが2年前に田中さんと一緒に日本橋のダンジョンの深層で宝箱を手に入れたと話してくれたのでそれを買いにきたのだ。


「渉、まずはこれの中身を見せる前にしなければならない事がある」


アタッシュケースを浮かべたアンジーさんを後ろに下げながら田中さんが前に出てくる。


「はい、金額ですよね?」


そう、これは売買。

金額も相手の言い値で決定される、これはダンジョンの宝箱の中身の売買の暗黙のルールだ。

つまり売る相手の方が完全に有利の状態。正直、深層の物だから4000万は下らないだろう。


「そうだ、まどろっこしいのは嫌いなので簡潔に言おう。値段は1億だ」


訂正、とんでもない額だった。



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