第33話

「いや、スマンスマン。試験のつもりだったんだが流石にバカにし過ぎたか?」


ハハハッと笑いながら男は謝ってきた。

そう、この男が依頼人の「大神 大吾」さんだ、因みに何故あんな格好をしていたかはどうやら俺を試していたみたいだった。


「今までの合格者はこの格好を見てから大体4分以内に反応したのに対してお前は大体1分だ!いいね、ほとんど反射的に反応してる感じだ」


そう言いながら大吾さんは試験の内容を話してくれた。

どうやら毎回依頼を受けた人を家に呼んで自分たちは簡単な悪戯(今回は鼻メガネ&パーティハット)をしてキチンと反応するかを試していたらしい。そして5分間以内に指摘しない場合は依頼をお断りするそうだ。


「こんな些細な悪戯も反応できない奴はあのダンジョンでは入ったらすぐに死ぬ。そして指摘できない奴は例えあのダンジョンで反応できても何も見つけられない…ま、大抵生きて帰ってきた奴は大体2分半で反応した奴らだけだがな」


大吾さんはそう言いながらパーティハットを頭から外して両手で持つ。


「あと、ギルドから送られてきたお前さんのプロフィールを確認させてもらった。

ジョブが『職人』?関係ない。

スキルに戦闘系が無い?問題ない。

あのダンジョンで要るのは1に何が起きても対応できる『反応力』、2に何処の何が変なのか見つける『判断力』、3に俺みたいな歌舞伎界の重役にも指摘を言える『度胸』、この三つだけだからな。

この三つを持たずにスキルやジョブだけの自慢野郎があのダンジョンに入ったら…」


大吾さんはそう言いながら両手のパーティハットに力を入れはじめ…


「こうなる」


パンっと両手で潰した。


「お前…いや渉さん、分かってんだろ?俺が言いたいこと」


大吾さんはクシャクシャとパーティハットを握り潰しながら聞いてくる、もちろん俺は察しがついている、この人が言いたい事が。


「はい、特殊ダンジョンは…階層が4階層以外は全てが他のダンジョンとは違う、正に地獄なんですよね?」


「正解。いいね、100点あげる」


特殊ダンジョンは階層が4階層以外は本当に何もかもが違う。

例としてアメリカの特殊ダンジョンを紹介する。

そのダンジョンの浅層は100メートルの一本道以外は何もない、モンスターもいないのだ。

しかし次の中層はまさかの競馬場、ケンタウロスみたいなモンスター達と一緒に妨害や殺害アリのデスレースをやらされるのだ。そして1着を3回連続でとれなかったら競馬場全体から大量のモンスターが湧き物量で殺される。

そして最後に深層、ここで必ず死ぬ。何故ならいきなり琵琶湖レベルの大きさの硫酸湖の真ん中に放り込まれるのだ。当然みんな溶けて死ぬ。

しかも帰還用ポータルも中層にしかなく、競馬場で1回勝たないとそれのある部屋の鍵が開かないのだ。

因みにこの特殊ダンジョンはまだ優しい分類だ、何故ならまだ映像として記録できているからだ。

大半の特殊ダンジョンは映像が取れない、電波が届かないしカメラを持参しても動かない。だから依頼という形で特殊ダンジョンに人を送って目視で確認してもらうかギルドの人が入って確認するかが殆どだ。

しかし、このダンジョンはスタンピードも起こらないから隔離して放置しているのが殆どなのだ。


「正直、こんな死にに行かせるような事はやりたくないんだ。だがな…」


大吾さんはそう言いながら天井を見上げた、その顔はすごく寂しそうな顔だった。


「2013年のあの日、第五期の歌舞伎座ができてこれからって時に《特殊》ダンジョンが出来ちまった。そのせいで政府から歌舞伎座の封鎖を言われたんだよ。しかし、その話を聞いた銀座の人たちがわざわざ自分達の土地を手放して俺たちに使ってくれって言ってきたんだよ。「銀座に歌舞伎座は必要だから」と言ってな。

そしてその土地に今立っているのがみてくれだけは一人前なハリボテ、今の歌舞伎座なのさ」


大吾さんは天井を見上げていた顔を今度は畳に向けた、そして何か懺悔するように声を出す。


「情けねえよな、明治時代から頑張って人たちに笑顔と希望を与えてきたのに、今の俺たちはそんな人たちが頑張って手に入れた土地を使ってまで歌舞伎を見せている。正直罪悪感で苦しいんだわ。そんな時だ、こんな話が舞い込んだ」


そう言うと大吾さんは顔を上げ、俺を見た。


「日本政府のお抱えの研究員さんがよ、ある論文を出したんだ。『特殊ダンジョンの消滅の可能性について』ってやつをな」











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