第30話
「よう、何読んでんだ『お肉の人』さん?」
俺が本を読みながら頭を書いていたら叶が声をかけてきた。
しかし俺はそれよりも周りが叶の『お肉の人』の言葉に反応した気がした方が気になった。
「おい叶、誰がお肉の人だよ。別に精肉店は経営してないぞ」
俺がそう言うと叶がニヤニしながらスマホを操作して俺にあるSNSの投稿を見せてくる。
その投稿に目を向けると…
「『我らの龍姫の笑顔を引き出すお肉の人の情報求む!』てコレ4か月前の投稿じゃん。…って、おい。この付属している画像は何だ?」
「やっぱお前か、あの後もきちんと頑張ってたんだな。嬉しいぜ!」
「いや、今は情報プリーズ」
俺は叶に詰め寄る。
叶が見せていた投稿に付属していた画像には座って笑顔で骨付き肉にかぶりついているチャイナドレスの女性と隣でハンチング帽に黒いYシャツに白い文字で『I♡狩り』と大きく書かれたやつを着てジーパンにスニーカー、ボストンバックを反対側に置き目が半分しか開いてないが死んだ目なのが確認できる男性が見慣れた装置で骨付き肉を焼いている画像だった。
はい、男性は俺です。服装も『Monster Hand Live』のお洒落防具『I♡狩りシリーズ パターンβ』装備一式です、見た目通り動きやすいから意外と戦える装備だ。
しかしこの時の俺は確かにこの子に肉を焼いていた、事の発端は購買で買った携帯食料が原因だ。
あの携帯食料は味は乾パンにピーナッツが入った味で正直狩りの途中に食べるのは物足りなかった。
だから『Monster Hand Live』で体力ゲージの上限を大幅に増やす「骨付き肉」を作れる簡易版携帯肉焼き装置を製作、使い方はは簡単で骨の付いた肉を用意して焚き木を用意して焼くだけだ。
しかも画像の日は確か肉を焼くだけでは味気ないと思ったから調味料を一緒に持って行ったんだよな。
そしてビックボアを狩ってポータルまで行ってから準備して焼いてたんだ。
そしたらやけに腹を押さえた女性がいたからどうしたのか聞いたんだ、そうしたらお腹がすいたと言ったから手に持っていた肉を渡したら喜んで食べたんだ。
その後に装置の前に戻ったら、いつの間にか俺の隣に陣取ったんだよあの女性。その後は画像の通り、確か4時間も女性のために肉を焼いていた。調味料で味変もしながら。
「OK、なら耳をかっぽじってよく聞きな」
叶は笑いながら説明してくれた。
彼女の名前は「城ケ崎 一二三」、ダンジョン配信者で去年の夏にデビューして、現在登録者人数2250万人の超新星配信者、13歳の女性だ。
彼女のジョブは『武闘家』と見慣れたジョブなんだがスキルがヤバいのだ。
彼女のスキルは『龍人化』『暴食』『食いだめ』の3つで、全部が超激レアスキルなのだ。
彼女は初配信でチャイナドレスで『龍人化』を使用、そうしたら頭に角と尻尾、そして手に鱗を生やしたのだ。
『龍人化』は自分の体の筋肉全てと全身の骨と体の一部を龍に変化させるスキル。もうめっちゃ強い、どれだけ強いのかと言うと初配信で深層、つまり全4層の内の三層までノンストップで攻略したのだ。
しかも『暴食』は空腹になりやすくなるが食べられるのであれば何でも食べられる様になり、食べた物のカロリーを消費すれば一時的に強くなるスキルで『食いだめ』は無限に食べ物が食べられる様になり、しかも食べた栄養やカロリーは彼女の意思で消費するか決められるスキルなのだ。
彼女の美しくも可愛らしい姿にチャイナドレス、「龍人化」による変化と『暴食』も使った猛進撃は全て見事に視聴者の心を掴んだのだ。
しかし彼女が笑顔になる事は配信内ではなく、雑談配信の時やコメントを返す時もすべてが無表情。しかも『暴食』の反動でお腹が空くと腹を押さえて無表情で不機嫌になるのだ。
そしてお腹が空いたら生肉でもなんでも無表情でたべまくる、そんな姿を見てつけられたあだ名が『暴食龍姫』。
だが、そんな彼女の配信内で唯一笑顔が写った神回がある、しかも配信時間が約6時間なのに対して笑顔でいた時間は約4時間とめちゃくちゃ長いのだ。
それは謎の男の人が彼女にひたすら肉を焼き続けるだけの映像だが彼女の笑顔に彼女の視聴者達がお祭り騒ぎになったのだ。
彼女もその後の配信で「あの時のお肉は美味しかった。もう一度食べたい」と笑顔で言っていたので俺のあだ名が『お肉の人』になったそうだ。
故に彼女の視聴者達が彼女の笑顔をもう一度見たいがために今も俺を探してると言うわけである。
「マジか…知らなかった…」
まさかの理由に頭を抱える。
「おう、俺はお前があれからキチンと頑張っている姿が確認できただけで嬉しいがな」
「茶化すなよ叶」
俺は叶とそのまま話をつづけた。今は叶から少しでも情報を聞かねば。…なんか変な事に巻き込まれた気がする。
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