第29話

〜一年後 11月21日 教室〜


あれから一年が経過した。

その間に俺は銀座駅のダンジョンだけだが装備の更新と用事がある日以外の休日を全てダンジョンに注ぎ込んだ。

おかげでビックボアやヴェロルの他多数のモンスターを無事に狩れるようになった。

相変わらずソロプレイ一直線ではあるものの寧ろ自分だけでどう立ち回るか、どう戦うかをだいぶ鍛えられたと思う。

装備もより扱いやすくて動きやすい物に変更して頑張って今日まで戦ってきた。


(だいぶこの世界での闘い方について分かってきた、そろそろ次の段階に進めるべきかな…)


俺はそう思いながら机で本を読みながら考える。

思い出すのはこの一年で印象に残った出来事、


(いろいろとあったよな)


そう言いながら思い出にふけった。



〜〜


深い森の中、俺はあるモンスターと戦っていた。


「くっマジかよ。確かに虫型のモンスターもいるとは書いてあった、書いてあったけどさ…」


俺は武器を構えながら相手をみる。実際このモンスターの装甲は硬く、しかし動きは俊敏。おまけに酸を吐く攻撃のおまけ付き。

空も飛ぶし下手したら複数で襲ってくる。

そう、その虫は漆を塗ったような黒い甲殻を持つ…


「何でよりにもよってGなんだよ!?」


柴犬サイズのGだった。


カサカサカサカサ…


「鳥肌がやべぇ!?誰か!殺虫剤プリーズ!!」


そう言いながら巨大Gと戦っていった。



〜〜〜


「何だ…この感覚は…」


俺は拠点の『裁縫 製糸』の部屋でパンツ一枚の姿でいた。

しかしそのパンツはただのパンツではない。


「お試しでビックボアの皮を革にしてから作ってみたが何というジャストフィット感だ。まるで履いてないみたいな感覚だぞ」


どうやらモンスターの皮などを使った服や装備は重さはあるがそれを感じないくらいジャストフィットするらしい。


「やべ、癖になりそう」


俺はそのまましばらくの間さまざまなポージングを取りながら耐久性と伸縮性を調べるのであった。



〜〜〜


ジューッ


俺は今、何故骨付き肉を焚き火で回しながら焼いているんだろうか?


「…」モグモグモグ


そして俺が焼いた肉を隣で片っ端から食いまくっている白髪で青い目のチャイナドレスを着た女性は誰なのだろうか?

それにさっきから飛んでいるドローンは配信をしているのか?下のスマホのコメントが高速で動いているぞ。


《ヒソヒソ…》


『おい、何でアイツさっきからものすごい速さでビックボアを解体したと思ったらすぐに肉を焼いているんだ?』


『隣を見てみろ、あれは配信者の『暴食龍姫』だ。アイツが昼飯に焼いた肉を姫におすそわけしたんだよ。

そしたら姫が目にも止まらぬ速さで次々とビックボアを取ってきては焼き続けてもらっているんだ。因みにアイツは肉を焼き続けてもう2時間もたってるんだよ』


…もうすぐ焼けるかな?


「よし、上手にやけま…」


バッ(肉が手元から消える)


パク(いつのまにか食べ終わった女性がさっきまで焼いていた肉に齧り付く)


ドンッ(いきなり俺の後ろにほぼ無傷のビックボアの死体が現れる)


「ほかふぁり(おかわり)」


「俺、今日何をしに来たんだっけ?」


その日以降あの子に会うたびに肉を焼くように頼まれるようになった。



〜〜〜


「待ってくれたまえ!」ビシッ


「いや、何で追っかけてくるんだよ!?」


俺は今ある男から全力で丘を走って逃げている。


「何故逃げる!?」グッ


「当たり前だろうが!」


男の声に俺は当然のように答えを言う。


「海パン一丁でモンスターを殴り倒しているマッチョに追いかけられて逃げない奴がいるか!」


「海パンではない!マッスルブーメランだ!」フンッ


「いや、どうでもいいわ!後何でいちいち返事を返す度にポーズをとるんだよ!」


「ポーズは気にするな、俺の癖だ!後マッスルブーメランを事をどうでもいいとか言うな!私のマイワイフの手作りだぞ!!」


『そうですよ、私が丹精込めて作った力作なんですよ!バカにしないでください!!』


「まさかの既婚者!?しかもパンツから女性の声がした!?!?」


「『気にするな少年!』」


「二重の意味でより怖くなった!!」


この追いかけっこは帰還用ポータルまで続き、無事2人とも職員さんに捕まり事情聴取をうけました。


〜〜〜


「いや、ろくな事なかったわ」


俺はそういいながら頭をかいた。






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