第20話

『あのモンスターの恐ろしい所は2つ。頭がいい事と群をなし、連携が取れる事だ』


この言葉は初めてヴェロルを狩った人物が名付けをした際にモンスターの恐ろしい所として発言した言葉である。


『ギャオ!』


「チィ!?」


5匹の内の一匹が突っ込んできたので横に飛んで回避する。…が、


「ッ!?」


背中に重い衝撃が伝わり体が前に吹っ飛ぶ。一瞬見えたが時間差で後ろに回ったもう一匹が背中に頭から突撃してきたみたいだった。

そして吹き飛ばされた拍子に俺の両手からチョッパーが離れ地面に落ちる。するともう二匹がそれに反応して…


『ク!』 パクッ


『…』パクッ


落ちたチョッパーを口に咥える、まるで警察が犯人の凶器を取り上げるように。

そして俺は吹き飛んだ勢いそのまま地面にうつ伏せで突っ込んで…


『ギャ!』


「ガ…ァッ!」


最後の1匹に力を込めた片足を背中にのせて動きを封じられた。

そう、これがヴェロルの戦い方だ。

ヴェロルは頭がいい、自分たちの声がコミュニケーションや仲間への指示に使える事を完全に理解している。

ヴェロルは賢い。だから分かる、1匹では力が弱く強い生き物には敵わないことに。

ヴェロルは弱いからこそ理解できる。仲間との連携の重要性や自分たちが狩りやすい地形の判断、そして狩る相手の力量を。

ヴェロルを解剖したモンスター専門の生物学者によればヴェロルの脳みそは人間と同等で他の生物の声の違いや物の色彩、個体差の匂いの違いまでを確認できる、そして何よりすごいのがこのモンスターは学習する力が人並であるという事だ。

更にギルドの報告だと彼らは狩る相手を下見したのちに仲間と相談して獲物を決めているような仕草や行動をしている事を確認したと報告されている。

そして狩る時は獲物が一人になる、もしくはその獲物が他の生物と戦っている時に襲う、なぜならその時も連携して狩れる状況だと彼らは知っているし更に後者なら食べられる獲物が増える、もしくは犠牲が出ても戦い弱っている双方の内の片方だけでも狩って持ち帰れば損がない事も知っている。

そして彼らの基本的な狩りの方法はシンプル、まず相手の攻撃手段を無くしてからの押さえつけ、そして嚙みついて止めを刺す。

つまり何が言いたいかと言うと、


(完全にハメられた!!)


幸いこの防具は魔石の粉を使い硬くしているため破けてはいない。

体もこの世界の元々の高い身体能力に加えトレーニングによる強化で何とか骨が折れてない、折れてないが…


(やべぇ…息が…)


足で背中を圧迫されているため空気が強制的に吐き出されている。そして今の俺に武器といえる物は解体用のナイフだけだがこれは腰のポーチの下にマウントされている、しかし背中を服ごと押さえつけられているので着ているロングコートが邪魔をして取り出せない。

俺はどんどん息ができなくなる中で必死に頭を回転させる。


(考えろ!考えるんだ!!武器がない俺には何がある!?)


俺は必死に考える。今の俺に動かせれるのは頭と右腕のみ、見える範囲にあるのは吹き飛ばされた拍子に胸ポケットから落ちたスキットルに踏まれた拍子にポーチから落ちたであろう替えの電池のみ。


(何かないか?何か!?)


俺がそう考えていると頭に粘性の生暖かい液体が垂れてくるのに気が付く。


「やべ……死んだ……」


俺はこの時にはっきりと死を覚悟した、そして流れる数々の光景が頭をよぎる。


(走馬灯……本当に見るもんなんだな……)


よぎるのは5歳の頃から始まりギルドの検査、拠点の初めての解放、学生ながら無茶な肉体改造の日々に今日の出来事……あ、


(あった!一発逆転の一手!!)


ヴェロルの口が頭まで近づいたその瞬間!


「おらぁ!」


『ギァオ!?』


止めを刺す一瞬に足を力を緩めたので頭を横にして右目でドアップで映る口の位置を確認、そのまま目と思える場所に狙いをつけてを思いっきり力の入った裏拳をお見舞いした。

すると運よく賭けには勝ったみたいで顔が横をにずれると同時に片足の力が抜ける。

そして俺は急いでその場を這って少し離れてから立ち上がる。そして周りを見ると片目をつむっているが涙があふれている個体と驚きながらもまた俺を囲み始めようとする残りの4匹が視界に映った。


「ハァ…ハァ…ようお前ら、聞きたいことあるんだわ」


俺は息を整えながら右手に解体用ナイフを、左手にはポーチから取り出したある物を手に取り、物体に付いているプラスチック製の丸いリングに中指を通してから構える。


「『プリントごっこ』って知ってるか?」


俺はそう言うと左手の物を俺の前に投げる。カプセル型の強化ガラス製の球体、そして投げた左手の中指には少し突起物が付いたプラスチック製の丸いリング。そして俺が目を押さえた瞬間、


バンッ


『『『ギャオオォォォッ!?!?』』』


周りの景色が強い光に包まれた。




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