第16話

「渉さん、知っていると思いますがダンジョンでは…


「はい、殺傷能力のある機械は使えないんですよね、大丈夫ですよ。これはこういうデザインをしているだけですよ」


……ならいいんですけど…」


職員は難しい顔をしながらチョッパーを睨む。

元々『people's redemption』と言うゲームは行き過ぎたバイオ技術で制御不可能になったキメラ達を狩って人類の生存権を確保していく狩りゲーだ。

そのため現代に近いがロマンあふれる武器が多い。そんなゲームの中で初期武器の一つとして選べるのがこのチョッパーだ。

俺も前の世界でこのゲームをやり始めた最初の頃この武器にお世話になっているからかなり愛着はあるし、基本回避しながら戦う双剣に近い武器なので回避基本の戦闘スタイルの俺にぴったりなのだ。

余談だがこの武器のデザインがいかれているせいで全世界のプレイヤー達からの『ピザカッター』とかわいい愛称を貰った武器でもある。


「…まあいいでしょう。武器も許可します」


どうやら職員さんも折れてくれたみたいだ。


(職員さんも大変だな…)


職員も持ち物に不備があったら責任を追及されるためチェックには厳重だ。

なにせこのチェックをきちんと調べないと次にチェックできるのは一ヶ月後、一応審査を通した人はダンジョンを出入りするたびにギルド系列の施設にアタッシュケースを預ける義務が発生するのである。非常にめんどくさい


「では、チェックが終了しましたので規則どおりにアタッシュケースをロックをかけさして頂きますね」


職員がアタッシュケースを閉めようとしている…あ、


「すみません、確認し忘れがありますよ。これです」


俺はそう言うとチョッパーの重なっている場所に入れていたLEDの懐中電灯と替えの電池を取り出す、因みにこれも書類に書いてあったんだがチョッパーのインパクトが強すぎて気が付かなかったのかな?


「まあ、すみません。確認します」


そう言うと職員は懐中電灯を手早く分解して調べ始める。


「電池は単二型が替えを含めて4本…問題なし、LEDタイプなので電球のチェックは無し…」


そして手早く組み立てるとスイッチを押す、当然電源をおせば光るわけで、


「光源も問題なし、問題ありません。見落としてしまい申し訳ありません」


職員がそう言うとアタッシュケースに懐中電灯と替えの電池をしまいのジッパーを閉める。そして金具に機械仕掛けの錠がつけられる。


「渉さんは初めてのご利用なので説明させてもらいますね。この錠にはGPSとICチップが内蔵されていましてダンジョンの入り口の近くに必ずあるゲート施設かここギルド系列の施設しか開錠できません。原則ダンジョンの出入りの時と装備確認の時以外の開錠は申請無しでは開閉はできないので武器や防具が壊れたとかアイテムの補充などはお早めに申告をお願いします。

あと基本的に受付の時間は6時から22時までなので時間はお守りください。ただしアタッシュケースの持ち出しやお預けの際は受付の隣にある24時間の自動受付で行えますのでそちらをお使いください。

あとアタッシュケースの盗難や置き忘れ等の問題が発生した場合は我々ギルドが出している防犯アプリにて錠に内蔵されているGPSにて確認できますので移動時間にでもダウンロードしておくことをお勧めします。

あと基本的にアタッシュケース以外はゲート施設内に持ち込めません。ですので移動中に買った飲食物は没収対象になりますのでお早めに処理してください。

ではコレを…」


職員は話しながら預けていた許可書入りの手帳を開きながらこちらに向ける。そこには紙のページに青い判子が押されていてこの建物の名前と職員の名前、そして今日の日付と一月後の日付が刻印されていた。


「はい、こちらは簡潔に説明しますと海外旅行に行った際に押される判子と同じ感じだと思っていただければ幸いです。違うのが法律で職員が装備の状態確認のために期限が一ヶ月に定められていますのでお忘れないようにお願いします。これはコンピューターに登録されますので自動受付の際に顔認証と共にダンジョン許可証を確認させてもらいますが期限を過ぎた場合はアタッシュケースの取り出しが不可になります、もし過ぎた場合は受付時間内にて書類申請からやり直しですのでのでご了承ください。

では私からはこれで終了とさせていただきます。何か質問はありますでしょうか?」


結構長く説明されたが簡単に纏めるとルールは守れとアプリをダウンロードしておけって事ね。


「大丈夫です。問題ありません」


俺がそう言うと職員さんは笑顔になり、


「では、渉様の安全な探索を心からお祈りいたします」


笑顔のまま頭を下げた。めっちゃ定型文っぽい言い方なうえ営業スマイル全開なので多分これは誰にでも言っているんだと思った。そして職員が頭をあげ立ち上がり先に部屋から出て行った。


「…うし、んじゃ行きますか!」


俺は切り替えて錠の掛かったアタッシュケースを手に取り部屋を出る。

ふとスマホを見ると時間は10時47分だった。


(書類申請したのが確か7時半くらいだったはず、長く感じたが意外と早く終わったんだな)


そう思いながら俺は建物を出る。そしてそのまま銀座駅に…


……グー


…の前に腹が鳴った。そういえば朝食を抜いて朝早くに書類を申請したんだったのを思い出す。


「……ダンジョンに行く前に何か腹に入れるか…」


俺はそう言いながら銀座駅近くのファーストフード店をスマホで検索するのであった。




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