第13話

『闘技放送』が初めて観測されたのはダンジョンが初めて現れてから約三年半後のアメリカ、ワシントンDCのホワイトハウス前のダンジョンである。

当時アメリカの陸軍がダンジョンの真相究明に動き1師団をこのダンジョンに投入して約5日で禁層に到着、その時に初めて観測された。

その放送では砂漠にわずか5名の隊員のみが映し出されたのだが隊員たちは傷だらけでいかにも満身創痍の様子だった、そして2分後に突然地面から大きな口が表れて隊員達は喰われて放送が終了した。

この放送があった翌日アメリカはこの事を世界に向けて放送をして禁層の謎についての情報提供をもとめた、その後日本を含めた各国が数年に一回のペースで同じ現象を観測、どれも5分以内でもはや公開処刑に近い内容だったため情報の整理が困難だった。しかし何とか情報を整理して次の事がわかった。


〇禁層の放送はその国だけに放送される。例外を除けば原則他の国の禁層の放送を見る事はできない。


〇例外としてD&Vなどの大型動画配信サイトには文字化けしたアカウントがありそこで生放送される。アカウントは文字化けしているが運営もこのアカウント停止や動画の削除が出来なくなっている。さらにこのアカウントには過去の全世界の放送がアーカイブにあり何回でも再生可能である。


〇この放送はどうやっても防ぐ方法はなく、どうあがいても見るしかない状況である。

などが分かった。

以上の事を踏まえてこの放送はもはや公開処刑ではあるがコロッセオで戦う剣闘士のごとく勇敢な行為ととらえ世界各国に『闘技放送』と名ずけられた。


「正直全国放送にも動画配信にも興味はない。だけど…」


俺はそう言いながら機械の蓋を開け中の粉状になった魔石に手を入れてすくう。


「正直あんな映像が流れたら試したくなるのが男の性だよな」


指の間からサラサラと粉が抜けるのを見ながら呟く。

この世界はゲームみたいに残機みたいな物はない、全てがぶっつけ本番だし明らかに禁層のモンスターはけた違いに強いだろう。

だが俺は狩りゲーをやり尽くしている。

モンスターの移動やモーションパターンの見極めも直感レベルで分かるし罠や薬も惜しみなく使う派である。もちろんノーデスでラスボスに裸単機で初期装備&アイテム無しで挑んで制限時間一杯まで生き残ることも簡単にできるレベルである。

だからこそ強いモンスターに挑みたい気持ちが抑えきれなくなってしまうのだ。俺なら今の攻撃の主を狩れるって思ってしまう。


「だからこそ来る日のために色々と作らなきやいけないよな」


狩りゲーみたいな動きを再現するために基本となる体を鍛える事から始め武器や防具の制作に薬や罠も作らなきゃいけない、入ると決めたダンジョンの情報やモンスターの情報も調べなきゃだめだし北海道並みに広いのなら移動手段の確保も必須だ。

他にもいろいろとやることは山のようにある。だからこそ…


「日進月歩…小さな事から一つ一つ…だな」


何も一気にやらなければならない訳ではない、一つずつ片付けていけばいずれ禁層のモンスターにも挑める日が来る。

俺はそう思いながら粉がある程度落ちた手をぐっと握る。


「待ってろよ禁層、いずれそこに辿り着いてそこのモンスターを狩って狩って狩りまくってやるからな!」


俺はそう言うと手を機械から抜く。

あと何年かかるか分からない、だが俺はあきらめない。

ダンジョンで戦えれば魔石も血も手に入り放題だし薬も罠も作り放題、何よりモンスターの素材を要求する設計図もあるから作るためにはモンスターを狩るしかない。


「俺はこの世界で狩りゲーの道具の再現をするって決めたんだからな…」


俺は改めてそう言葉にしてから粉を入れる容器を取りに部屋を出た。


~その日の夜~


「渉、すまんが来年の春に東京にある本社に転勤が決まったから遅くても来年の2月には引っ越さなければならなくなった」


「Oh…マジっすか父よ」


「マジだ」


俺、地元から東京に引っ越しが決まりました。

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