第五十一話◆美琴◆

 もはや私の頭はパニックを通り越して、ショート寸前状態となっていた。

 

 貴文が、死んだ・・・?

 理解不能。


 貴文が、喋らなくなった。

 理解不能。

 

 貴文が、笑わなくなった。

 理解不能。


 貴文の胸からお腹にかけて、ポッカリと穴が空いている。

 理解不能。


 骨がむき出しになって、反対外に折れている。

 理解不能。


 血もいっぱい出ている。

 理解不能。


 貴文の細かな肉片が、そこら中に飛び散った。

 理解不能。

 

 貴文のお腹から、何かが出てきた。

 理解不能。

 

 貴文のお腹から出てきたそれは、映画の世界の架空の生き物だ。

 理解可能。


 そう、架空の生き物のはず。なのに現実に居る。

 理解可能。


 この世界に突如現れた。

 理解不能。


 いや・・・、元から居たの?

 理解不能。


 そして、私の目の前をトコトコと歩いて行った。

 理解不能。


 目の前を横切ったそれを、得体の知れない生き物を、OL風の女の人が振るった尻尾がぶっ殺した。

 理解可能。


 OLの人に尻尾が生えていた。

 理解不能。

 


 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 理解不能。

 ???

 ??????

 ?????????

 理解、不能・・・。



「そうなのね・・・。お気の毒。彼は、融合種じゃなかったのね」

今時、かなり珍しいけれど。と、OLの女性は付け足した。

「ゆう・・・ごう、しゅ?」

「まさか、知らないってわけではないでしょ?」

 自分でも驚いたけれど、オウム返しのように声が出ていた。つい最近、同じワードを耳にしたばかりな気がする。

 ショート寸前の頭の片隅で、そんな事を思い出している自分が居る。

 


どこで聞いたんだっけ?

・・・

・・・・・・

『「ヨシキは残念だったな」』

『「ああ」』

・・・

『「まだ居るんだな。『融合種』になれてない人間が」』

・・・・・・

『「そうね。今居るヨシキは、ヨシキであって違うヨシキなんだよね・・・」』

・・・・・・・・・

 ふいに男の子たちが話していた声が蘇る。

そうだ。伊織と待ち合わせしてたコーヒーショップで聞いたんだ。その後、すぐに伊織が来て、不思議な手帳を一緒に見たんだっけ。

 ・・・ていうか、あの手帳も一体何?

 


 「大丈夫?・・・ごめんなさい。あなたにどんな言葉をかけたら良いのか」

OL風の女の人は心配そうにこちらを見つめている。

 私はどのように応じて良いか分からず、ぼんやりとその人の顔を眺めていた。よく見ると、黒髪ロングのうりざね顔の美人さんだな、とそんな事まで考えていた。

 私が言葉に詰まっていると、

「・・・あなたは、融合種みたいね」

とその女性が続けて言った。



 その瞬間、頭の中で、パンッという何かが弾けるような音が響いた。それは私の頭の中だけで発生した音だった。

 私は、とうとうその場に立って居られなくなり、アスファルトの上に倒れ込む。

 視界が、だんだん白くなっていく。

 意識が、どんどん遠のいていく。


「たか、ふみ・・・」

そして、私は、気を失ってしまった。


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