第五十話◆美琴◆
先ず、卵から孵ったサソリのようなものが、人間に襲いかかり顔に纏わりつく。そのサソリの中には『エイリアン』の幼虫が居て、人間の口から体内へと侵入する。幼虫は人間の体内で養分を吸収した後、身体の内側から骨と肉を食い破って体外へと出てくる。『エイリアン』とはそんな生き物だったはず。・・・確か。
私は放心状態になってその場に立ち尽くしていた。そんな私をよそに、貴文の胸を突き破って出てきたそれは彼の腹部を抜け出し、トコトコと足早に私の目の前を横切って行く。
けれど、衝撃はそれだけで終わらなかった。空気を切り裂くような音がしたと思うと、長い鞭のようなものが、真上からその『エイリアン』の幼虫を一突きにした。
幼虫は文字通りその場で砕け散り、黄土色の液体を飛び散らせる。液体が付着したコンクリートの路面から蒸気が上がり、見る見る内にコンクリートは溶け始めていった。
黄土色の液体の正体は、その幼虫の血液だった。『エイリアン』の血液は強い酸性とかで、あらゆる物を溶かしてしまうのだったはず。・・・確か。
私は、貴文からそのように教わった時のことを思い出していた。
私は鞭の出所を恐る恐る目で追っていく。すると、そこにはOL風の女性が立っていた。なんとその鞭のようなものは、OLの人の腰の裏まで続いているようで、正確には鞭ではなく、尻尾だった。
OL風の女の人が繰り出した尻尾の一撃が、幼虫を突き刺して殺したんだ。と、いう事は理解ができた。
私は改めてその残骸に目をやる。驚きのあまり声が出なくなってしまったけれど、それに反して思考ははっきりとしていて、酸の血液が道路を溶かしていく様子を眺めながら、粉々になった破片が次第に沈んでいく現象も理解する事ができていた。
尻尾の先端は刃のように鋭く尖っていて、勢いよく突けば、岩をも砕きそうな程の強靭さを兼ね備えているように見えた。
事実、OL風の女性から伸びている尻尾は、幼虫を串刺しにするだけでなく、コンクリート路面をも貫通し、粉々に砕いていたのだった。
「そこに倒れている彼は、あなたの大事な人?」
OL風の女性に訊ねられた。
「・・・」
言葉が詰まって声に出ない。私は放心状態となりながら、ぎこちなく首を縦に折る。それだけで精いっぱいだ。
「・・・そう」
すると、鋭利な尻尾はみるみる内に女性の腰の中へと納まっていく。スルスルと彼女の身体の内部へと吸い込まれていくようだった。
よく見ると腰の上の部分の衣服が破け、ポッカリと丸い穴が空いている。尻尾を突き出した時にできたものだというのは明白だった。
・・・え?
人間って変身して『エイリアン』を一突きにして殺せるの?
この世界には、そんな事ができる人間も居るっていうの?
ふとそんな考えが頭に浮かんだ。謎が更なる謎を呼び、頭が混乱を始める。
「もしかして、彼は・・・、あなたの恋人だった、とか?」
再び、OL風の女性に訊ねられた。気まずさと哀れみを織り交ぜた混ぜたような、同情を伴った複雑な表情を私へと向ける。
辛うじて、私は再び首肯する。頭の中が謎だらけとなり、私の口はあんぐりと空けられていた。
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