第四十九話◆美琴◆

 それは、突然私の目の前で起こった。

 時間は朝の八時で辺りは明るく、それは元の世界では夜の八時に相当する時刻なのだけれど、とあるファミリーレストランを出てすぐの事だった。


 その日は、夜十二時に品川駅に貴文と待ち合わせした。

 水族館に行って、その後はぶらぶらとウィンドウショッピングを楽しみ、やがてお腹が空いたのでファミリーレストランに入って朝ご飯(つまり夕飯)を食べ、それから貴文の車で軽くドライブするという、平和でありふれたデートを楽しむ一日だと思っていた。


 私達はレストランを出て駐車場に停めてある車へと歩いていた。

 ところが、その途中で急に貴文がその場に倒れ込んだ。

「・・・どうしたの? 貴文」

私は彼の肩に手をかけた。最初は訳が分からず、何か悪いものでも口にしたのかとぼんやり思っていた。



「み、美琴。お、俺はもう駄目だ。俺に近づいちゃ・・・い、けない」

「え?」



 彼は駐車場の真ん中で仰向けになった。口から血を吐き出し、苦しそうにもがき始めたのだった。

「貴文!?ッ」

 その時だ。バキバキバキッという何かが折れるような音と共に、貴文の腹部が異様な程に膨らみ出したのだ。



「?」



 少しして、腹部の膨らみが一旦元に戻る。けれど、その周りの彼の衣服は赤黒く染まっていた。


「俺は、ゆ、ゆう、融合種じゃ、なか・た。みこ・と、ご、ごめ・・・」


 バキバキッ。再び音がしたと思うと、貴文のお腹が破裂した。大量の血が噴き出

し、私の顔面にも数滴かかった。他にも細かな肉片のようなものが駐車場のアスファルトに飛び散っている。

 あの何かが砕けるような音は、内側から肋骨がへし折られる音だったのだと理解した。


 ピクピクと痙攣している貴文の腹部から、それは出てきた。

「あ」



 一言で例えるなら、それは血塗られた男性器に、横に長い口のついたようなものだった。

 バドミントンのシャトルケース程の大きさだ。私はそれを、どこかで見たことがあると思った。

 

 ・・・『エイリアン』。

 あれにそっくりだ。いや、そっくりとかそういうレベルじゃない。それそのものだ。

 いつだっただろう。貴文に薦められて、嫌々ながら一緒に観た記憶がある。『エイリアン2』というタイトルの映画だった。

 


 「何で最初からじゃなくて続編から観るの?」

貴文にそんな質問をぶつけていた私の声が、脳内に蘇る。

「うん。勿論1も面白いんだけど、2のほうがバトル感があって楽しいんだよね。ホラー感が少し薄くなってるから、美琴にはこっちから観てもらったほうが良いと思って」

 そういうと、彼は私に携帯を差し出してきた。そこには話のあらすじや劇中シーンのビジュアルが載っている。

「なんか気持ち悪そうなんだけど・・・」

 私は自然とそんな風に呟いていた。

「まぁまぁ、今日は映画ジャンケンで俺が勝ったんだから、観たいヤツを観させてよ」

口を尖らせていた私に向かって、宥めるように彼は言った。


 説明文の見出しに『今度は戦争だ』と書かれていた。

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