第四十四話◇琴美◇

「図星ヌポね。恥さらしも良いところヌポ。一宏、お前のそんな紳士的な態度なんて、薄っぺらで上っ面のものにしか過ぎないんだヌポ。

 女性にだらしないお前なんぞ、琴美と結婚する資格なんてないヌポッ!」



 いつの間にか呼び捨てにされている。まぁ、いいけど。



「黙れヌポヌポ野郎ッ!」

雪だるま弟の顔がみるみる内に紅潮していく。

「よくもこの私に対して! 無礼者めがッ。ヌポヌポぬかしやがって、キモイんだよッ。貴様なんぞにこの私の琴美さんは絶対に渡さんぞ!

 このヌポヌポ野郎がぁぁぁああああーーーーーーッ!!」

「ついに出たなヌポ! お前のドス黒い本性が。

 上等だヌポ。かかってこいヌポ!今日こそ決着をつけ、兄であるこの僕との決定的な力の差を見せてやるヌポッ!」



 フウ・・・。と、ここで私は長い溜息をついた。



「一つ、あたしの話も聞いて頂けないでしょうか?」

私は雪だるま弟の方に向き直った。

「・・・ハッ!これは大変失礼致しました。私としたことが、つい取り乱してしまった。お見苦しいところをお見せしてしまいました」

 弟は丁寧なお辞儀をしてから、

「何でしょう。琴美さん」

と、紳士的(?)な態度に戻ったのだった。


「あたしには心に決めた人が居る。折角の申し出だけれど、あたしにはあなた方のどちらとも結婚する気はない」

 今度は雪だるま兄に向かって言った。

 心に決めた人が居る・・・。正確には居た、だったけれど・・・。でも、今のこの場では黙っておくことにする。



「フフフフフ・・・」

ところが、弟はうろたえるどころか、悠然と落ち着き払っていた。

「琴美さん。残念ながら、貴女あなたはまだ私の魅力にお気づきになられていないようだ」


「?」


「知性、身体能力、容姿、名誉と金。どれを取っても、私に敵う男性なぞ居りませんよ。兄も私ほどではありませんが、なかなかの実力者です」



 だからと言って、その事が結婚する理由にはならない。それにしても、この自信は一体どこからやって来るのだろう。



「フン!そうだヌポ。実際は僕のほうが一宏より上だけど・・・。

 まあ、そういうことヌポよ。特に、僕は、頭には自信があるんだヌポ。能ある爪は鷹を隠すんだヌポ〜」

「兄さん、逆です。」

全く恥ずかしい。と、雪だるま弟は呆れ顔だ。



 フウ・・・。再び長い溜息。



「分かりました。では、こうしましょう」

私は雪だるま弟に提案を始める。

「何でしょう?」

「何だヌポ?琴美」

兄弟が声を合わせる。

「あたしと、スノーボードであの麓まで勝負しましょう」

そう言って弟へ一瞥を投げると、私は遥かコースの下を指差した。

 雪だるま兄弟はきょとんした表情を浮かべている。


「誰が一番早くあそこまで辿り着けるか競争する。あたしより速く滑れたら、その方と結婚する」

 私は雪だるま兄に向って宣言した。

「お二人ともあたしより先にゴールした場合、先にゴールされた方のプロポーズをお受け致します」

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