第四十二話◇琴美◇

「ところで、スノーボードはどれぐらいやってるんだヌポ?」

あれほどの滑りをするのだから、相当の経験者と見たヌポ。と、彼が、どこかで見ていたのであろう私の滑りを称える。


「今回が初めて」

「なんだって・・・ヌポ?」

たちまち彼が顔を輝かせる。

「本当ヌポ?」

「嘘をつく意義も理由もない。何回か滑っていくうちにカンとコツが分かってきたので、その感覚に従って滑っているだけ」

私は眼下に広がるコースを見据えながら言った。


「すごいヌポ! あれはプロ顔負けの滑りだったヌポよ!! 貴女あなたは知性のみならず、とてつもなく優れた身体能力の持ち主なんだヌポ」

益々この僕のお嫁さんに相応しい人なんだヌポ。と、彼は鼻の穴を膨らませがら付け加えたのだった。



 一方の私は、逆に彼の滑りが見てみたいという気持ちが芽生え始めていた。雪

だるまの彼の体型を改めて観察してみる。

 私の身長が一六六センチ。十五センチ以上は離れていそうなので、彼の身長は一五○センチ前後だろうか。縦に短く横に長いという表現がぴったりだった。

 北斗財閥という名前に聞き覚えはなかったけれど、確かに見るからに高級そうなウェアとボードを携えている。年齢は二十代前半、だろうか。

 どこぞの財閥の御曹司が、こんな庶民のスキー場にやって来たりするの?という疑問が頭をかすめたが、それ以上は深く考えない事にした。考えても分からないから。

 



「ところで・・・」

雪だるまの彼が喋り始める。

「イキナリ結婚式を挙げるというのも、抵抗があると思うんだヌポ。だから・・・」

 自身のペースでどんどん話を先に進めていく。流石の私も、この時ばかりは苦笑いを浮かべそうになった。

「僕達には、一年程度の交際期間があった方が良いと思うヌポ」

 異論はないヌポ? と、彼が私を見上げてきた。目はキリっとしていて、口は真一文字に結ばれている。どうやら本当に本気らしい。



「どうしてあたしなの?」

「・・・ヌポ?」

「あたしの他にも、このスキー場にはもっと若い子や可愛い子が居る。どうしてあたしに声をかけたの?」

「それはヌポよ」

 するとその時、

「兄さん」

と、私の背後で声がした。

「・・・一宏」

雪だるまの彼が私の背後に視線を向けると、すぐさま眉間に皺を寄せた。

「何の用なんだヌポ?」

 

 そこには雪だるまの彼と瓜二つの男性が立っていた。一目見ただけで兄弟だと分かる。双子と見間違えるほどだった。もしかすると、本当に双子かも知れない。

 しかも、兄と同じ模様のボードを脇に携えている。違いといえば、色くらいか。雪だるま兄(?)は青を基調としており、カズヒロのほうは緑のそれだった。特注品なのか、ボード自体はとても高級な物のように見える。


「抜け駆けはいけませんよ。その方には、私と兄さんのどちらが良いか、公平に見定めて頂かなくては」

最終的に私を選んで下さると言う事は、既知の事実なのですがね。と、その男性はしたり顔で付け加えたのだった。

 

 体型はまるで一緒だけれど、雪だるま弟(?)の方が紳士的な姿勢に見える。けれど、その発言の内容は兄と同様、やはり滅茶苦茶だった。

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