第三十九話◆美琴◆

◆能力の発動条件は、俺の死である


◇世界を変えてしまう程の能力であるが故に、俺の全生命エネルギーを費してしまうのだと、そう解釈した


◆そして、この能力は、俺の意思に関わらず、俺の死後に発動されるものだという事が最近分かった


◇つまり、もはや止めようがないのだ


◆どうせ止められないのなら、人間が進化した世界が良い


◇人間の脅威となる何かを克服し、その脅威と融合した世界が


◆従って、俺は、自分のこの肉体と精神を、捨て去る勇気を持たなければならない


◇また、これも最近になって確信したのだが、俺が生きている間に読んだり観たりしたものが、能力に強く反映されるらしい


◆この間、面白いSF小説を見つけた


◇とても印象深い小説だった


◆もしかしたら、能力に強く影響を及ぼすかも知れない


◇機会があったら、俺の『分身』にもその小説を紹介することとしよう


◆いつかきっと、読んでくれるに違いない



「『分身』?」

私は思わず呟いていた。

「何のことだろうね?・・・兄弟?それとも誰か大切な人のことだったりして」

伊織も呟いた。

「コレ、小説か何かのネタ帳なのかな」

彼女はニコニコしながら、首を傾げている。

「ねぇ、伊織。この手帳、もうちょっと読んでみない?」

伊織が腕時計で時間を確認する。

「うん。良いよ。まだ少し時間あるし」

私は、不思議と、この手帳に書かれている内容が気になり始めていた。



◇自身の能力の片鱗として、俺は自分の命日も把握している


◆自分がいつ、どこで死ぬかを正確に把握している


◇具体的な日時について、ここに綴るのは止めておこう(確信しているのだから綴る必要もない)


◆ただし、どのような経緯で、どのようにして死ぬかまでは何故かイメージが沸かない


◇或いは、もしかすると、最後の最後まで認識することはないのかも知れない


◆先日、『分身』に俺の死の可能性について話したところ、とても悲しい顔をされた(能力については特に話をしていない)


◇俺の『分身』が、自分も一緒に死ぬと申し出たところを、俺が断ったからだ


◆俺の『分身』には、死んで欲しくない


◇彼女(『分身』)には前向きに生きていって欲しい


◆能力が、あらぬ方向に向かい兼ねないという理由もある


◇そう、能力の発動の鍵は彼女(『分身』)なのである


◆必要なのは『分身』という、俺の理解者なのである


◇つまり、この能力の発動には一・五人分の生命エネルギーが必要なのだ


◆更に、六名の奇妙な人間達との邂逅かいこうが能力の発動への力となるだろう


◇これらのエネルギーを総動員することで、能力は完全に完成される


◆従って、彼女(『分身』)は、俺の死を乗り越えなければならない


◇そして、『分身』は生き続けなければならない


◇やがて彼女(『分身』)は能力の『引き金』を認識し、失われた物(物理的なモノかどうかは不明)を取り戻すだろう


◆失われた物を取り戻してから二十一日以内、能力発動の時は訪れる

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