第三十七話◆美琴◆
「ぎゃッ」
と、思わず変な声を漏らしてしまう。
「大丈夫?」
伊織は、手に持っていたカップをテーブルの上に置くと、中身を拾うのを手伝ってくれた。この子は本当に優しい子だと、私はいつも思う。
「ありがと、伊織。・・・そういえば、麗華は?」
拾いながら私は訊ねる。
「麗華、今日は体調不良だって。授業休むって言ってた」
「そうなんだ。大丈夫かな」
私が自分の手帳に手を伸ばした時だった。
「あれ?」
伊織が声をあげた。
「これも、美琴の?」
そう言うと、彼女はもう一冊の別の手帳を差し出してきた。
それは、B5版程のサイズの古びた手帳だった。ぼろぼろになって破けてはいなかったものの、至る所に皺ができていて、一部が変色している。
「何コレ? あたしこんなの持ってなかったハズだけど・・・」
その手帳以外のものをバッグにしまい、改めて見つめ直す。
「でも、美琴のバッグの中に入ってたんだよね?」
「うん。そう・・・みたい」
「学校で誰かのを間違って持って来ちゃったのかな」
伊織の発言に対し、私は途中から首を振っていた。
「それは無いと思う。だって、このバッグ買ったばかりで、今日初めて学校に持って来たから」
実のところ、今日はこの買ったばかりのバッグを、伊織と麗華の二人に披露したかったのだ。
「・・・という事は 、やっぱりその手帳は、美琴の家にあった物なんじゃないのかな」
「だよね。そういう事になるよね」
私は頷いてみたものの、やはりこの古びた手帳に見覚えはなかった。状況的に私の物としか言いようがなかったけれど、本当に見覚えがない。
改めて手帳をよく見てみる。女の人よりも男の人が好みそうなデザインだった。
じゃあ、お父さんのかな・・・?
と一瞬頭をよぎったけど、お父さんがこんな古い手帳を持っていた覚えもなかった。それにお父さんのセンスとも少し違う気がする。
ところが、しばらく手に持っていると、不思議な懐かしさに包まれた。初めて見たハズなのに、この気持ちは・・・何?
知らない誰か、それは本当に全く知らない人なのに私にとって大切な人。その人が大事にしていた手帳なのだと、次第にそんな想いが強くなっていく。
そしてその想いは、私にこの手帳の中身を今ここで見るようにと、強く誘っていった。
「ねえ伊織。二人でこの手帳の中見てみよっか?」
「・・・良いの?」
「全然オッケーだよ。だってコレ、あたしの物ってことだから」
私は、彼女にも見えるように、テーブルの上に手帳を横にして広げ、ページを捲っていった。
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