第二十二話◆美琴◆

「マジかよ・・・」

 ピンクのポロシャツが手を離した。薄々感じてはいたけれど、この身体の主は女の人だ。私は確信した。


「それにしても、何だったんだコイツは。この女の子の知り合いか? どうしてここが分かったんだ?」

 ピンクのポロシャツは倒れた男の子の方を振り向いた。金色のピアスが大きく揺れる。

「知るか。そんなこと。こっそり後をつけて来たんじゃねえの」

黒のタンクトップが、どうでもいいと言わんばかりに吐き捨てる。

「・・・だったらこの子がヤられる前に助けるんじゃね?」

 ピンクが私(の主)に視線を向けた。フン、と黒のタンクトップが鼻で笑う。やはり大して気に留めていないようだった。

「でもよ」

 ピンクは何かが引っかかっているようであり、腕を組んで思案顔を浮かべた。

「どっかで見たことある顔なんだよな」

いや、誰かに似てる気がすんだよなあ。と更に補足した。


 

 しばしの沈黙。



 不意にアロハシャツがこちらに視線を向ける。

「なあ」

黙っていたアロハが口を開いた。

「どうせ殺しちゃうならさあ・・・もう一回だけ、良い?」

「(何?)」

私は心の中で呟いた。時間が止まったかのような感覚に包まれたのも束の間、ある一定定の方向に向かって、新たな流れが発生する予感。良い方向ではなく、とても不穏な方向に。


「俺さ、こんな可愛いコとヤれるチャンスなんて、人生でもう二度とやってこねえと思うんだよ」

「(?)」

「それにさあ、この子、叫んだり泣き喚いたりしないじゃん? なんて言うかさあ、それがすごいそそられるんだよね。たまに漏れるこのコの吐息が俺の顔にかかった時、俺、きっとすぐにまた・・・」

アロハの口の端が吊り上がっていた。

「それもそうだな」

黒のタンクトップが頷く。

「へへへ。すぐに殺しちゃうのも惜しいよなあ」

ピンクのポロシャツが低い笑い声をあげた。釣られて他の二人も一斉に笑い出した。


 決してうるさい笑い声ではなかった。けれど、それは汚くて、醜くて、底が見

えない程の下品さを露呈した笑いだった。

 現実は、やっぱりこうなんだ。世界には、このような人間が存在してしまっているし、こういう事が起こってしまうんだ。私は、冷めた目で人間という生き物を分析していた。



「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ」

 

 突然、雷鳴のように耳を突きさす音が響きわたった。女の人の声だ。その声の主は私だった。私であり、私が宿るこの身体の主の声だった。

 前進しようとするも、何者かが私の行く手を阻む。気がつくと、私の両腕は頭の上で柱に縛り付けられている。何重にも巻かれたロープが、私の手を雁字搦めにしていた。

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