第二十話◆美琴◆
意識が朦朧としている。ここは夢の中なのだろうか。私は現実とも夢とも判断のつかない、ふわふわした中間の空間を彷徨っていた。
手の甲に目をやると、両方の甲が真っ赤に染まっているのが分かった。
「(ひ・・・)」
悲鳴をあげそうになったが、何かの力に押さえ込まれ、声を発することを制限されてしまった。
それは、間違いなく血だった。私の手の甲から流れ出る鮮やかな赤色。よく見ると、肉が弾き裂けて中から骨が露出している。
「(何これ?)」
どうやら心の声を発することは許されているらしい。痛々しい手の在り様から目を逸らしたい衝動に駆られるも、やはりそれをすることが何かの力により制限されていた。そして不思議なことに、痛みは全く感じないのだった。
確か私は、世界のお昼と夜が逆転した問題で頭が一杯だったはずだ。ふとそんな事を思い返す。
一体どうしたのだろう。何があったというの・・・?
まわりの風景が視界に入ってきた。ここは、廃墟?・・・いや、倉庫の中のようだ。倒れたドラム管や何かの重機の存在を認めることができる。倉庫の入り口は半分程開かれていた。四メートル以上ありそうな大きな鉄の扉だ。赤茶色に錆びているのが分かる。
人が出入りしなくなってから、随分と時が経っているように感じられた。開かれた扉の先に外の景色を窺うこともできる。そこには雑木林が広がっていて、颯爽と生い茂った木々が風に揺られていた。
私は、この忘れ去られてしまった倉庫も、その外に広がる風景にも見覚えはなかった。
「(ここはどこなの? どうしてあたしは、ここにいるの?)」
また私の理解を超える天変地異か何かが起こったとでもいうの? 私の理解を飛び越えたところで、一体何が起こっているの?
不意に視線が下方向へと向けられた。そこにはピクピクと痙攣する肉の塊があった。三つある。
「(人間だ)」
私は塊の正体を理解する。三つとも男だということも何故か理解できた。どうして人間だと認識できるまでに時間がかかってしまったのかと言うと、どの塊も赤黒く染まっていたからだ。身体から血が噴き出したのか、それとも吐き出したのかは分からない。或いはどちらもなのかも知れない。
一つ、分かったことがある。今この映像を観ている主は、私であって私ではないという事だ。ここにいる今の私は、この映像を自由に観、思考することだけを許されていた。
そして私は、時の流れを逆にたどり、鮮明なる現実の姿として再生させることもできるらしい。
少しだけ時を遡ってみる事にした。
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