第十八話◇琴美◇
程なくして、図書館を巡回していた警備員に取り押さえられ、彼女はいずこかへと連れ去られて行った。私はようやく本の世界に舞い戻ることができた。あともう少しで読み終わる。私にしては珍しいジャンルに手を出していた。
SFミステリーとでも呼べば良いのだろうか。異星人が宇宙船に乗って地球にやってくる話で、アメリカのSF小説家が書いた古い文献だった。当然ながら、著者の名前に聞き覚えはない。
けれど、この当時の小説には珍しく、異星人が地球にやって来て人間を滅ぼすだとか、地球を侵略するとかいう類の話ではなかった。
異星人達は特殊な技術を用いて、地球上の全て生命を別の生命に置き換える。いわば、生物から生物への一次変換とも見ることができる。
ただ、その変換にはある種の制限が設けられていた。その制限とは、一対一かつ種を超える事ができない、というものだった。インプットとアウトプットははっきりと書かれているものの、変換内容そのものについては曖昧な表現が多く、うまくイメージできなかった。
そして物語はいよいよクライマックスを迎える。異星人である彼らが見たかったもの、それは変換後の生物達の姿ではなく、その「先」にある変化だった。その小説の中で描かれている「先」とは、互いに反発し合う種族の融合によって、生物は更に進化を遂げるというものだったのである。
私は小説を読み終えると、机の上にそっと置いた。親指と人差し指で目頭を押さえる。途中で思わぬ邪魔が入ったとは言え、五百ページ以上もの長編を一気に読んだ目には、それなりの疲労が溜まっていた。
ふう。私は目を閉じたまま大きく溜息をついた。
ふと、読書席から窓の外を見上げた。相変わらず雨は降り続けており、黄色く紅葉したオオモミジからは絶え間なく水滴が伝っている。葉を伝い枝を伝い、やがては地面へと落下し、間もなく土に吸収されて消滅した。
季節は秋から冬へと移り変わろうとしている。
人の容姿はそんなに重要なのだろうか。容姿端麗であることが、それほどまでに価値のあるものなのだろうか。ふと、そんなことを考える。美醜の概念がほとんどない私にとって、いや、正確には十一年前に失われてしまったと表現する方が正しいのだけれど、もはやそれは永遠に理解できないし、取り戻せる事のない感情と言ってよかった。
いずれにしても、綺麗や可愛いといった女性(男性も、かも知れないが)は、羨望の対象であり、また妬みの対照でもあるらしい。個人個人に多少の感覚の違いはあれど、価値のあるものと言って間違いないようだ。
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