第十七話◇琴美◇
「全てこの女が悪いんだわ。催眠術でもかけて雄也を
「・・・」
「何とか言いなさいよッ!」
バン! 彼女は思い切り机を叩いた。もはや、周囲の目線は、彼女に何の自制心も呼び起こさないらしい。
「・・・」
「おいコラ! 黙ってちゃあ、何も分かんねーじゃねえのよッ」
「・・・黙っててと、言われた」
彼女の右目瞼が痙攣を起こし始める。怒りと興奮が頂点を迎えようとしているらしかった。
「あたしは、あなたの夫ではないので」
噴火寸前の彼女を静かに見据える。
「あなたのご主人があなたを愛しているかどうか、確かなことは何も言えない」
そもそもそれ以前に、と、私は思ったことを素直に口にする。
「あなたは、あなたの夫のことを愛しているの? 愛するよりも愛されることの方が幸せなの?」
あたしはそうは思わない、と、付け加えた。どれだけ人を深く愛し、どれだけ心を通い合わせられるかが重要であり、幸福なことなのではないか、と。
「キィィィイイイイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
文字通りの金切り声が辺りに響き渡った。あまりの高音に思わず顔をしかめる。
「生意気ほざかないで頂戴ッ。何よ! 何なのよあんた! ちょっとくらい綺麗でスタイルも良いからって調子こいてんじゃあねーわよッ!」
ゼエゼエ。
「あんたみたい女が男を
ゼエゼエ。
ゼエゼエ。
ゼエゼエ。
「男のみならず周りの人間をも不幸に陥れるのよッ」
思い違いも甚だしい。少なくとも私は、彼女とその夫(雄也)に対しては何もしていない。そして、調子こいているつもりもない。ただ、私の対応は気に食わなかったのかも知れない。
「謝れ! 私に謝れ! 全人類にも謝れ!! さあ早く土下座して謝りまくれッ。このボケ畜生がぁぁぁああああーーーーッッ」
「お客様、お静かに願います。周りの方々へのご迷惑となりますので」
騒ぎを聞きつけたのか、誰かが苦情を申し立てたのか、図書館の職員が小走りでこちらへとやって来た。黒髪を肩まで伸ばした若い女性職員だった。職員専用の緑色のエプロンを締めている。
「テメェも女か! テメェも私の雄也を
「は?」
女性職員が困惑の表情を浮かべる。もはや夫に浮気された彼女に理性の欠片はなく、支離滅裂なことを叫び散らす事しかできなくなってしまったようだ。
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