第十三話◆美琴◆
容姿や性格が異なる新しい生物達の新しい世界。
「生物関数」は生物達に「変化」を与える、新しい歴史を生み出す技術と言っても良い。
ところが、「生物関数」の真価は「変化」を与えることに留まらない。技術には「変化」の「先」があったのだ。では、その「先」とは何だったのかと言うと・・・。
「忘れちゃった」
あはは、と私は笑っていた。小説の名前も思い出せないでいた。
私は再び空を見上げる。そこには何の変化もない、澄み切った青空が広がっている。
さっきの光は何?そんな気持ちはとうに薄らいでいき、気持ちの良い朝陽が降り注ぐ。ただ、辺りは異様な程に静まり返っていて、ひと気が全くない。そして、どういうわけか、太陽の光を浴びながら、私は若干の寒気を覚えていた。
携帯で時刻を確認する。間もなく九時半になろうとしていた。
「夜だと二十一時半だから、公園に人がいないのも当たり前か」
私はベンチから立ち上がる。
「でも何だか、似てるかも」
周りに人が居ないのをいいことに、頭の中を考えを声に出して整理しようとする。もはや恥ずかしさなんてかけらも感じない。
私はSFミステリー小説のことを想う。世界で私一人だけが完全な「変化」を遂げず、不完全な変化を遂げてしまったのだ。つまり、「変化」前の一部を、変換後も引き継いだ存在に。と言うか、引きずっている。そう表現のほうが正しいかも知れないけれど。
だけど、と私は思う。そうだからこそ、不完全だからこそ、私はこの世界の傍観者を決め込むことができるのだ。
「よし」
私は公園を出ると家に向かって歩き始めた。左手にはひっそりと軒を連ねる住宅街がある。前方にはひと気のない通学路。そして、右手には公園沿いに茂る小さな森が迫っていた。
「今からこの世界を第二世界と呼ぶことにしよう」
私はまたしても声に出して自分の意思を確認する。一台のタクシーが、私の脇を
速度を飛ばして走り去っていった。危ないなぁ、と思いつつも
「人っ気のない遅い時間だったら仕方ないか」
と、一人呟いていた。
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