第十二話◆美琴◆
携帯で時刻を確認すると、間もなく朝の九時になろうとしていた。夜の時刻に換算すると二十一時だから、まだそんなに遅い時間ではないはずだ。
駅と家との間のちょうど中間地点に公園があり、私はその中のベンチで少し休んでいくことにした。空が暗ければそんなことは思わないのだろうけれど、空が明るいのでのんびりしたくなってしまう。
しばらくの間、私は空を見つめていた。
「これからどうしよう」
思わずそんな台詞が口をついて出た。
するとその時、空に一筋の光が突如現れたかと思うと、ジグザグ方向に高速で動き始めた。
私は目を見張る。
何回かジグザグ運動を繰り返すと、やがて光は消滅した。消滅の瞬間には、眩い程の強い光を放っていた。
「何、今の?」
思わずそんな台詞が口をついて出る。しばらくの間、私の目は空に釘付けになっていた。空を見つめながら、私の頭には高校生の頃に読んだSFミステリー小説が去来する。
その小説では、宇宙から地球へとやって来る異星人が登場する。巨大な宇宙船に乗ってやって来るところはありきたりなのだけれど、人類を侵略しに来るのでもなく、滅ぼしに来るのでもない。彼らは人類、いや地球のありとあらゆる生命に、とある「変化」をもたらすためにやって来るのだった。
その「変化」をもたらす術として、異星人達は「生物関数」という不可思議な技術を使う。関数なのに技術?といった細かなツッコミは置いておくとして、とにかくその技術は、地球上に生きとし生ける全ての生き物を、別の生き物へ変換するというものだった。
曖昧な表現が多くて、何が起こっているのか具体的にイメージするのが難しいのだけれども、とにかくそれは先ず空から始まる。空から「変化」は始まり、やがて地上へと落ちてくる。
そう。空が落ちて来る。剥がれるかのように。
異星人達が駆使する技術、「生物関数」の概要はこうだ。
それは地球上の生き物を、地球上の別の生き物へ一対一で変換することができ、生物の種を乗り越えて変換することはできない技術だった。このことは一体から複数へ、複数から一体への変換は不可能であり、例えば人間から犬、兎から人間への変換もできないことを意味している。
ただし、性別を渡ることは可能だったハズだ。確か。
では、別の生き物へと変えるとはどういう事かと言うと、例えば人間に限って言ってしまえば、ある人間から姿かたちや心の異なる全く別の人間が生まれる、ということである。
何らかの規則によって、既存の人間が今まで存在しなかった新しい人間に変換される。そう表現したほうが正しいのかも知れない。
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