第四話 ◆美琴◆

 でもね、俺が言いたかったのは、と貴文はいつものように食い下がる。


「真のオリジナリティというのは存在しないんじゃないか、って」

「ふうん」

「人は誰でも、最初は他人のモノマネから始めていって、やがてそれを自分の中で咀嚼してモノにして、自分なりのオリジナリティを発揮していくんじゃないかな」


 貴文の顔つきは真剣そのものである。

「ふうん」

私が興味のないような反応を見せると、ついに貴文は口を噤んでしまった。

「ごめんね、悪かったよ! 興味ないよね。こんな話」

ふくれっ面を作る仕草もまたカワイイ。

「うん。興味ない」

私は、ワザと素っ気ない態度を見せる。


 私が無表情のまま貴文を顔を眺めていると、たまらなくなったのか貴文の方から先に視線を逸らした。

「な〜んちゃって。嘘だよ、ごめんね!」

ここで私が始めて相好を崩すと、貴文は安堵の表情を浮かべる。内心、私が怒っているのでは、と思っていたのかも知れない。

「ぶっちゃけ、ちょっと焦ったかも」

貴文が照れ笑いを浮かべる。

「あはは。ごめんね」


 いつもこんな調子の貴文だけど、何事にも自分の考えを持っている点があの子の尊敬できるところだ。感覚で行動する私には無いものを沢山持っている。



 ふと窓の外の景色を眺めた。いつも通りの景色だ。眼下に見える駐車場。黒のセダンと真っ青なインプレッサが停まっている。隣の岸谷さん家のベランダに干してある洗濯物。遥か正面に臨む都会のビル郡。スカイツリーも見える。


 しかし、どこか違和感があることに気付いた。

「何だろう?」

何かがおかしい。私は窓を開け、目を凝らし、もう一度窓からの風景を見やる。

 ビル郡の窓に明かりが点いている。本来おかしなことではないはずなのだけれ

ども、妙に引っかかる。


 ビルから右方へと視線を移した。首都高速道路の流れを見るとライトを付けた車両が散見された。

 壁にかかったセイコーのアナログ時計の時刻を確かめる。時計の針は六時四十分を指していた。

 

 急いで部屋を飛び出すと、廊下の突き当たりにあるトイレに駆け込んだ。壁の小窓を開け、西の方角を眺めると、そこには太陽の姿があった。太陽は何事もなかったかのように空から気配を消そうとしている。

 

 今度は急いで一階へと階段を駆け降りた。

「美琴、階段は静かに降りなさい。いつも言ってるでしょ」

キッチンで食事の支度をしているお母さんが、開口一番で私に言った。不機嫌というよりも呆れたような顔をしていた。

 しかし、そんな忠告を無視して私は言った。

「発表会のことだけど・・・」

ここで少し、躊躇した。

「発表会がどうかしたの?」

お母さんの表情が呆れ顔から訝るそれへと変わった。

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