2024年1月 離婚危機とかいうやつ

 限界ワナビお父さんは現在、GAとOVLに1本ずつ応募している。2月にしか一次選考の結果が出ないこともあって、1月はワナビ的に報告すべきことが乏しい。そもそもプライベートで問題が起きてしまい、まともに創作の時間が取れないでいた。


 ◇◇◇


 ──新年早々、お母さんから『離婚』を切り出された。


「このままだと離婚だからね。本気で考えてるから」

 

 正確には、「あまりなめた家事育児をしていると離婚するぞ」という威嚇射撃。実は昨年に娘が生まれてから、お母さんは離婚という単語をチラつかせている。その度にお父さんは謝罪を重ねて乗り切ってきたのだが、今回は「本気で」と言うのだから恐ろしい。口調も一切の口ごたえを許さぬ非常に強いものだった。威嚇射撃のはずなのだが、その凶弾は確実にお父さんの心を貫いている。


「……勘弁してください。大変申し訳ない。ミスをなくすよう善処します」

「いつも口ばっかりじゃん、嘘つき」

「少しだけ釈明をさせていただいても」

「言い訳しないって約束だよね? あと、手は止めないで」

「はい、すみません」


『お前が洗って拭いたはずの食器に、水滴が残っているじゃないか』──事の発端は、お父さんの家事の雑さだった。お父さんは家事全般について、お母さんから厳しい指導を受けている。今回もお母さんが指導に入ったところ、ご飯準を準備するお父さんの脇に置かれた『洗い物』に目が留まった。そこには輝く水滴があった。


「朝の掃除の後、トイレの蓋が上げっぱなしだったよね。そういえば昨日は洗濯物の干し方も畳み方も変だったし。 どうして普通のことができないの?」


「ごめんなさい、がんばります」


「いつもいつも。同じミスをして、挙句の果てに新しいミスをする。次はどんなペナルティがいい? そろそろ本気で離婚しかないと思うんだけど……だから違うって! フライパンが焦げ付くから中火以上にしてないの! 考えれば分かるでしょ!」


「ごめんなさい、がんばります」


 最近のお母さんは虫の居所が大変悪い。娘の夜泣きが悪化して、猫は深夜に走り回る。このコンボで睡眠不足が進行中。娘のお昼寝中にお母さんも寝て欲しいところなのだが、FGO(※)もあるしそう都合よく寝られない、とおっしゃられる。


※ FGO

お母さんがやっているソシャゲのひとつ。元旦には福袋ガチャを買って、一番要らないキャラが出たと機嫌を悪くしていた。1月下旬頃、新しいイベントが始まったらしく、愚痴りながらめんどくさそうに周回している。2023年夏に8周年を迎えたが、未だに諸々のスキップは実装されていない(恐らく実装できない)ようである。


「いつも形だけは謝るけどさ。ほんとは悪いと思ってないでしょ。『この程度のことでギャーギャーうるさいな』って心の中では思ってるよね。気を抜いて取り返しのつかないことが起きてからじゃ遅いし、そもそも何度もミスされたら不愉快なんだよ? 怒るのはおかしい? それとも、この程度のことで怒る私が悪いって言いたいの?」


「すべて俺が悪いです(この程度のことでギャーギャーうるさいな)」


 お父さんは既に諦めの境地に至っていた。


 今だって、お父さんはレンジで冷凍食品をチンしながらフライパンで餃子を焼き、隙を見てサラダを盛り付け、その最中もベッドの上で遊んでいる娘の様子に気を配りつつ、お母さんの怒りを受け止めなければならない。どうしても作業が雑になりやすい慌ただしさである。これが仕事であれば『ミスが起こらない仕組みを作るか、ミスの原因となる工程を排除する』検討を行い、理想的には『誰が作業しても同じ結果になるように』標準化しよう──と提案するところだが、家の中ではそうはいかない。


 前提として、いわばプロである専業主婦のお母さんが『当然こうすればいい』とした作業なら、お母さんのやり方が変更不可の仕様になる。更には、お母さんが何か不手際をしたところで、それをミスだと糾弾する者がいないのだから──お父さんにしかミスは生じないのだ。お母さんからすれば『余裕の作業なのに、お父さんのミスばかりが目につく』という結果になる。気をつけるもクソもない。お父さんのミスは、これからも無限に量産され続けるに決まっている。


 ……ならば、どうすればいいか?


「ごめんなさい、がんばります」

「言葉はもう信じないから行動で示して」

「ごめんなさい、がんばります」


 どうしようもない。


 その後もネチネチは続き、その夜、お父さんは何も書かずに眠りについた。そこにラノベ作家を目指す『限界ワナビお父さん』の姿はなかった。……次の日から、家に帰ると動悸と吐き気がおさまらない。すべての家事育児を終えた後には真っ先にトイレへ駆け込んで、消化途中の吐瀉物をぶちまける日々が始まった。


「昨日も吐いてたでしょ。風邪なの? 体調管理くらいちゃんとしてよ」

「ごめんなさ……ヴェッ──」

「あっち行って。あんまり頻繁に風邪ひくようなら、出てくからね」

「……大丈夫でス、それほど体調は、悪ク、ないデス……──ヴォエ!」


 お母さんは胃腸風邪だと勘違いしているようだったが、どうせ怒られるだけなので訂正しない。お父さんは夜になるとトイレの便器に顔をつっこみながら、お母さんが幸せになる方法を考え続けた。……というのは嘘である。実際は、楽になりたくて思考を放棄、胃の内容物を出しきったら泥のように眠るだけの生活。腹が立ちすぎて深夜に目が覚めてしまったときは、お母さんにバレないよう息を殺して、家中の掃除(※)に精を出す。


※ 掃除

掃除はよいものだ。元々綺麗好きというわけでもない男性も、結婚後にいきなり掃除に目覚めるケースがある。ワナビ家もそうだ……お母さんは掃除に興味がないから、やり方をどうこう言われることもない。無心で掃除を続けれていれば、心も綺麗になっていく気がするのだ。便器の黒ズミをブラシでこするのはよくないと分かっていてもこする。綺麗になるから。風呂場のカビをスポンジでこするのはよはよくないと分かっていてもこする。綺麗ニナルカラ。床の汚れをウェットシートでこするのはよくないと分かっていてもこする。キレイ、ニ、ナルカ、ラ──


 分かってはいるのだ。お母さんだって大変だし不安だし、余裕がないのだ。だから目の前にいるお父さんを、役立たずだと罵らずにはいられない。お父さんは理不尽に感じてしまうが、冷静に考えてみると、お母さんも実は理不尽に怒っているわけでもない。お母さんにはお母さんの理屈があって、その立場からすれば正当な怒りなのである。


 ……だからこそ、どうしようもない。


 ◇◇◇


 そんなこんなで、気が狂いそうになっていたある日。


 カクヨム運営公式さんからに突然、レビューをいただいた。たくさんの人から温かい応援をいただいた。お父さんはガチで泣いた。


 ありがたい。心の底から感謝している。「そんな意図はなかったんだけどな」と困惑されるだろうが、間違いなくお父さんは救われた。「こんな状態ならいつか離婚するだろうし、明日また離婚という言葉が出たらいっそ同意してやってもいいか」と何となく思い始めていた……壊れかけのお父さんがギリギリ踏みとどまることができたのは、きっと皆さんのおかげである。上記の経緯から反応が遅くなってしまったが、この場を借りてお礼を申し上げたい。


 本当にありがとうございました。


 それからお父さんは、自分が何者かを思い出すことができた。


 自分はお父さん。書くことでしか自分の存在を主張することができないくせをして、それすらも上手くできず、プロになれないともがき苦しむ底辺ワナビだ。だが、誰よりも文章を愛していると自負していて、誰よりも二次元に浸かってきたと豪語して、そんな自分を認めない世間の方がおかしいぜとうそぶいて──俺の文章は絶対に面白いのだと一人で酔って書き続ける、そんな馬鹿だ。


 そんなわけで、今この文章をものすごい勢い(当社比)でタイピングしている。


 レビューにはこうある。『大変な生活をおもしろく綴ってやろうという意志とそれを楽しんでやろうという意気が感じられて』……うん、よくないな。レビューとは真逆。早々に裏切りの鬱展開である。これはよくない。「こんな話を読みにきたんじゃないんだけどなぁ」と嫌気がさして、途中でブラウザバックしていった方たちもいただろう。大変申し訳ない。……限界ワナビお父さんは己の実力不足を強く恥じた。


 だから、考え方を変える必要がある。

 ここまで書いてきたことで、自分の気持ちを整理することもできた。


 限界ワナビお父さんはラノベ脳なのだ。それも、最後はハッピーエンド以外認めないの原理主義者だ。悲しくも美しいと思える余韻を残すような終わり方……なんてクソくらえ。何らかの理由で主人公とヒロインがそれぞれ別の道をゆく、そんなラストがいいと思ったことは一度もない。なのだ。


 なら、現実でも大団円を目指そうじゃないか。だって、ワナビなんだから。


 ──次回そのうち、仲直り編。


 …………………………書けるといいなぁ。



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