#2 死にたくない

「カネノ…ユキミ……」

どうしよう。

赤髪ショートの少女は、正座しているような体勢の私を冷ややかな目で凝視していた。

死ぬ。

私にはもう妖術を使う余裕も体力もない。

妖術を使えたところとて、この子に当てられるとは思えない。

この子のおかげで、妹を追う人は一人だけとなった。増援を呼んでなければの話だけど。

だけど、私は死ぬかもしれない。

妹だけでこの先を生きていけるか、不安ではある。

私が死んでも……

死んでも……

死ん……

嫌だ!!!

私が死んだところで、妹が生き残って救われるわけじゃない。

逆に私という食い扶持を1つを失って、生き残る確率を下げるだけ。

なら、生き残る。

私が死んで誰かが救われるってわけじゃないんだ。

悔しいけど、生きるためだ……。

私は死にたくないし、私の目的は妹に生きてもらうことだ。

その目的を果たすためなら……。

私は顔を上げて、服に隠していたお金を取り出す。

あんまりないけど…生き残るためだ……

「……あのッ!」

「あ?」

「その……助けてくれて……ありがとうございます……」

「…………は?」

「なので!何か!お礼をさせてください!!!」

私は嘘と本音が混じった言葉を発し、その言葉にその子は固まった。

私はこの人のことをよく知らない。

性格も、好きな物も、趣味も。

だからこれは賭けだ。

賭けに出なきゃ、最悪死ぬ。

この場を生き延びるには、賭けに出て勝たなくてはならない。

私は、何に対してのお礼なのかを短めに説明しながら、この賭けに勝てるか内心冷や汗ダラダラ垂らしていた。

この人がもし金を求めるなら、有り金全部差し出す。

お金はいくらかの場所に保管してある。

ここにあるのが全部って訳では無いし、また稼げばいい。

何かを手伝わされるかもしれないけど、最悪それも止むなし。

一番ヤバイのは、さっきのやつらと同じく奴隷商かそれに属する奴らに連れていかれるか……

この子がサディズムで、私を痛めつけて殺そうとしてくるっていう可能性。

その場合、私に待つのは死の一択だけ。

そうなったら、全ての力振り絞って逃げるしかないだろう。

逃げ切れる可能性は、限りなく0だろうけど。

生き残りたい一心で言った言葉だ。

この子がそんなつもりは一切ないってことは重々理解しているが、私の心のどこかでこの子に助けられたって思ってる部分があるのだ。

嘘と本音の入り交じったこの言葉。

その言葉の奥にあるもう1つの本音も見透かされているかもしれない。

それがバレたら終わりだ。

お願い…………

お願い……

死にたくない……

「……お礼…ね。じゃあちょっと頼もうかな」

私は息の飲み、身構える。

「ケヒッ……じゃーあーねぇ……」

少女は舌を出し、少し頬を赤らめながら舌なめずりをする。

そして、ヨダレを垂らしながらゆっくりと私に視線を移した。

……あれ?

なんだろうこれ。

何で顔赤らめてるの?

私見て舌なめずりしてるの?

何でヨダレ垂らしながらこっち見てるの!?

分からない分からない分からない!!!

そして、可愛いのに怖い!

この子の顔立ちはすごく可憐だ。

すごく可愛らしいし、肌もツヤがあって綺麗。

髪は少しボサボサしてるのに、髪ツヤがあってサラサラしてる。

すんごい美少女……

そんな美少女が、顔赤らめながらヨダレ垂らして舌なめずりしながらこっち見てる。

私そういうのじゃないけど……すんごく可愛い。

その子はゆっくりとこっちに近づいてきて、私の前でしゃがんだ。

ひゃっ!?

顔すごい近い……

すごい可愛い……

吐息もいいにおいしゅる……

じゃない!

顔近い!

少し動いたら私とこの子の鼻がぶつかっちゃいそう。

そのくらい近い。

「ケヒッ……ケヒッ……」

少女は、その悪魔のように美しく恐ろしい笑みで、私に願いを告げる。

「あっちの街にある店の、私のフェーバリット団子、奢れ」

…………は?

え?ん?えあえ?

私は少女の願いに困惑している。

意味がわからない。

ダンゴ、オゴレ?

アノマチ?

あ、あの街妹と落ち合う約束してた街だ。

ちょうどいい……

でも、団子……?

「私はその店の団子が好きだ。今も買いに行こうとしたら、財布を忘れてるのに気づいてな。取りに戻ろうとしたらゴロツキのチンピラに絡まれちまった。その悪い出来事の打ち消しみてーに今お前に奢ってもらえるチャンスが出てきたって訳だ。よく分からねぇけど」

少女は私に抑揚の小さい声で説明するも、想定外すぎる答えに戸惑わずに居られなかった。

財布を……忘れ……?

サ〇エさん……?

「わ…わかりました。ちょうど私もその街に用がありますしね12000円までですが…できるだけお礼します……」

なにわともあれ……変なこと頼まれなくてよかった……

私はそう安堵しながら、少女と、妹と約束した街へと向かった。



「みたらし400」

「はいよ~」

「ちょっ……ちょっと待ってください!」

少女は店に着くや否や、私の所持金額をオーバーしそうな程の量を注文しようとしていた。

「何?」

「いくらなんでも買えませんって!みたらし400本なんて買えませんよ……私の所持してる額は12000円。みたらしは1本160円ですよ!?」

このお店の看板に書かれていたみたらし団子の価格は160円。それを400本買うといくらになるか、暗算で直ぐに分かるはずだ。

止める私を不思議そうに見つめながら、少女は話す。

「え?160かける400って11000じゃない?」

「え?」

「え……?」

少女は再び固まり、動き出したと思ったら指を折って計算し始めた。

「えーと……160円で…それを400本……えっと……まず……6×4が………………………………………………24…?それから……」

この子、ダメかもしれない。

まるで計算ができてない

目がグルグル回り始めて、頭から湯気が出てきてる。

もしかして……小2~3の算数でこの子、脳がオーバーヒートしてるの……?

「……あれ…?ナンダッケ……アンドロメダ銀河……?」

…答え、教えてあげよう。

「160×400は64000ですよ……52000円オーバーです。私の買える限界は75本です…」

「……そうか。じゃあそれで」

少女に答えを耳打ちで教えてあげて、購入できる本数を伝える。それに少女はうん、と頷き、私は店の店主に75本とはっきり言った。

注文し終わり、少女の方を向くと、縁側の方に腰掛けており、ゆったりと座っていた。

その容姿とみたらし団子を楽しみにしているその光景から、やはり彼女が単なる可愛らしい女の子にしか見えなくなってきた。

そんな柔らかい雰囲気に少し飲まれてしまい、少女の隣に座る。

そして、私は今までちょっと気になっていたことを尋ねた。

「名前はなんて言うんですか?」

「藤本 娃紗怒アサドだ」

その少女は私の顔をしっかり見て、そう

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