地獄ノ鬼構

@merucy

#1 逃亡と暴行

 あるところに、おんなのこがいました





 ようやくだ





 そのこは、じめんにあおむけでたおれていました





 ようやく終わる





 そのこのおなかには、きのぼうがささっていました





 嗤え





 あかくてきれいなものが、いっぱいでています





 嗤え





 そのこはしあわせそうでした





 きゃははははは





 そのこは、うごかなくなりました



 走れ!

 もっともっともっと走れ私!

 逃げるんだ!!息が切れても、肺が破れても、気管が潰れても…!

 私は今、奴隷商に雇われたであろう男たちから逃げている。

 どうしてこうなったのか。

 私は、妹とお父さんと3人で暮らしていた。しかし、さっき街を妹と歩いてたら、私たち二人は突如奴隷商御用達の集団に攫われてしまったのだ。どうしてこんな背の低いどうみても非力そうなちびを捕まえるのか全然分からない。けど、このままじゃ私たち姉妹の人生は詰み。逃げるしかない。私は攫ってきた集団の人数が5人であることを把握して、逃げ出す計画をたてる。車で運ばれていたが、山道に入ったので、何とか隙をついて妹と山の中に入り、妹とは北側のふもとで会う約束をして別方向に逃げ出した。

 二手に分かれた方が、追手の数を分散できる。それに私の方が事務処理や妖術の研究に使えるってアピールを事前にしておいたから、やはり値としては私の方が高くなるのだろう。思っていた通り、私の方が追ってきてる人数が多い。5人中4人も私を追ってきてる。妹のほうが私より体力が多いから、一人だけなら逃げ切れるはず。

 でも…私はどうしよう…?

 逃げ切れ…るか…な…?

 木とかの周辺にあるものや、妖術を利用して逃げてるけど…

 あはは…難しい…かな…?

 妹が助かることだけ考えてたから…私が助かること全く考えてなかったな…

 私が捕まったら。妹の方に行くのかな…私の予想なら、多分逃げ切ってるはず…

 いくら何でも町に逃げ込めば、見つけることは至難になるはず…

 あ…だけど、妹お金持ってないや…

 どうし…よ…う…頭が…すごく痛く…なって…

 そんなこと考えてる…余裕が…

 その時、私の隣を何か通ったような気がした。

 何が通った…の?

 私と同じくらいの高さのものが通った気が___


 あっ


 私はその通ったものに気を取られてしまい、注意がおろそかになってしまった。小石につまずいてこけてしまい、前に勢いよく倒れて滑ってしまう。

 土煙が立つ中、私は立ち上がろうとするも、腕が上がらない。

 体力がもうない。

 自分の手足を見る。

 擦り傷がいろんなところにできていて、血がいっぱい出ている。

 傷ができたと自覚した途端、小さな痛みが腕や足のいたるところから襲ってくる。


 痛い…


 痛い……


 痛い………


 不味い…このままじゃ…

「ようやく追いついたぞ…」

「おいおいこけんなよ…せっかくの上玉なのに、傷がついたら値が落ちるだろうが」

「さっきの術を見る限り、エネルギーの量も多いみてぇだしな…おい、新入り、何してる。早くこっち来い」

 ははは…

 これで終わりか…

 ある程度妖術で抵抗できることもバレちゃったし、一度逃げ出したからもちろん警戒される。

 それに、もしこの奴隷商人たちが所属している組織が大きなものだったら、魔法を使えないようにする錠くらいはあるはずだ。

 私程度の力じゃ、思いつける作戦も限りがある…。

 万策尽きた…。

 …いや

 まだあきらめるな。

 妹をこのまま残しちゃいけない。

 まだあの子だけじゃ食い扶持を得ることなんてできない…。

 私は周りをきょろきょろ見渡す。

 そして、地面を見た。

 その地面の草が雑だが、全て刈られていた。

 まるで、刃物で全てまとめて切ったように、スパッと切れている。

 その痕跡を目で追った。

 それは、道になっていた。

 向こうの…山のふもとの町の方向に続いている道に。

「おいマジで何してる!このクソガキ捕まえたから、さっさともう一人の方も___」

「ぱいせぇん!!!!見てくだせえよ!!!!このガキもちょーーーー可愛いですよ!!正直タイプ!!!」

「はぁ!?こんな山奥にガキがいるわけ____っている!!」

 奴隷商人たちは私に手錠をかけるなり、一番後ろにいた男の方へ全員駆け寄っていく

「なんだこのガキ…袴着てるのか…?」

「13くらいか…?いやでもいいなこのガキも…いい値つくぞ」

「…おい待て。このガキ…なんか顔ひきつらせてねぇか…?」

 私は後ろを振り向く。

 男たちが囲んでいたのは、一人の少女。

 身長は私と同じくらい…150cm未満くらいかな...?

 袴と羽織りを着ているその少女の顔立ちはとてもかわいらしくて、立ち姿も背筋がピンとしてて美しかった。

 ショートで、ボブなのか丸みのあるやつなのか、ぱっつんなのか、分からないその髪は、バラよりも、血よりも赤く美しく、太陽の光に照らされて輝いている。

 宝石のように赤く輝く凛としたその目は、今、闘争本能むき出しの獣のような眼をして、男たちを睨みつけた。

 私は一瞬、その少女が、ではないように見えた。

 生き物ではない、ナニカに____

「うぜえんだよさっきから!!!!!!!」

「え?」

 少女に触れようとした男の右腕が、曲がる。

 右腕の肘関節が人体の構造として手は、向いてはいけない向きに向いたのだ。

 驚くのはその速さ。

 多分だけど、理解したくなかったけど、あの少女が男の腕を折った。

 行動が早すぎる。

 他人に対して暴力を振ることにためらいがない。

「捕まえるだのなんだの___」

「ぎぃぃいい___」

「は?」

 腕を折られた男は、何も理解できないまま、少女に蹴り飛ばされる。

 そして、少女はすぐさま別の男の溝落ち辺りを殴り、下あごに蹴りを入れる。

「挙句の果てにはかわいいってなんだ!?てめぇの目は節穴かぁ!?」

「あ?」

「は?」

「え?」

 残りの奴らの肝臓と頭を殴り、屈強な男たちが全員倒れてしまう。

 私でもわかる。

 少女の出す一撃一撃が、ヘビーボクサー級の選手のそれよりもヤバイ。

 そしてこの子が、殺しとかにためらいのない裏の人間かもしれなってことも___

「けほっ…」

「あ?」

 気管が全力疾走を長時間したことに耐え切れず咳が出てしまった…

 その咳で、今まで気づいてなかった私の存在にあの子が気づいてしまった…。

 その少女の冷たい目が、こちらに向く。

「ひゃっ……」

「…何お前?」

 少女は、情けない声を出す私に、そう尋ねてきた。

「え…あ…え…鐘野…幸美です…」

 私は混乱している脳で、震えた声で、そう答えるしかできなかった

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