生首集合住宅ログ

@mokumoku_ren

しゃべる生首と生首ではない者の30日分

喋る生首と自分の共通点は喋れることぐらいだと思っていたが、同じ場所で暮らしていくうちに似てきてしまった。天地ほどの差は狭まり溶け合いそのうち終わりが来るのだろうと思うそばから、生首が静かに増えていく。

#novel首塚 「雲壌/天地」


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生首の名は何度聞いても形が取れないが、何度聞いても生首は嫌な顔ひとつせず同じ答えを返す。わからないままに生首の名を呼ぶと、いつもの答えと同じ音が口から出る。

#novel首塚 「答え」


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生首と語り明かす羽目になった日、このような明け方のことを「かわたれどき」と呼ぶのだと生首は言う。この生首は真顔でさも最初からそこにあったような出まかせを述べるのだが、この生首はそもそもこんな外見をしていただろうか。

#novel首塚 「かわたれどき」


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生首はここのところ毎日物語を語って聞かせてくる。どうやら生首たちの中でテーマらしきものが共有され、語られる物語も共有されているようだが、詳しいことは教えてもらえない。こちらも聞いた話をまとめていることは、もうしばらく秘密にしておく。

#novel首塚 「物語」


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里帰りするという友人を見送り、そういえば生首の故郷を知らなかったなと尋ねてみたら、故郷はここだよと当たり前の顔で返してきた。いつから生首がいたのか思い出せない。

#novel首塚 「故郷」


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「あの灯りはみんな生首が光っているもの」と言って、生首は窓辺で眠り始めた。

#novel首塚 「灯り」


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生首可物件と生首有物件が選択できると言われ、生首有物件を即決したら、よく喋る生首が据えられていた。道理で居住者がよく入れ替わるわけだと納得しながら、今日は音声アシスタントに成り代わろうとしている生首をあしらう。

#novel首塚 「センタク」


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天袋に隠されていた知らない生首について、知っている方の生首は白を切り続けている

#novel首塚 「白」


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毎日、日付が変わる頃にどこからともなく聞こえてくるかすかな声に生首が唱和しているので、何をしているのかと聞いたら、首がよくのびる呪文とのことだった。

#novel首塚 「呪文」


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アドベントカレンダーをもらったので玄関に飾って以来、たくさんの扉の中に毎日違う生首菓子が入っていることを確認して、生首にその味の感想を聞かされながら眠りにつくのが日課になった。

#novel首塚 「飾り」


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ボウルいっぱいに注がれたお茶の中に生首が浸かって何かを喋っている。口も鼻も沈んでいるために内容はわからないまま、水面が静かにたぷたぷと揺れているのを眺めている。

#novel首塚 「たぷたぷ」


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時々、生首をどこかに置き去りにしてしまおうかと思うことがあるが、外に置くとして適度に平たく目に付かず、なおかつ人に見付けられる場所が思い付かない。生首に意見を求めたらお前の首の上でいいと言われたが、それはそれで別の首がひとつ余ることになってままならない。

#novel首塚 「置き去り」


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庭の大きな椿の木に咲いた花が、どの順番に散るか生首と賭けをしている。負けがこんできたから、そろそろ生首との立場が入れ替わるかもしれない。

#novel首塚 「椿」


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生首が家にあるとそう長く家を空けられないしそれなりに規則正しい生活をする理由にもなり、人生になくてもいい枠がはめられている気がしているが、同時にこれはいい感じの額縁なのかもしれない。最近の生首は、音声アシスタントを使いこなして新しいダジャレを模索している。

#novel首塚 「額縁」


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よくわからない店主がよくわからない品揃えで営んでいる店で、生首をモデルに面を作ってもらった。いい出来だったので面を着けたまま家に帰ったら、面を見た生首は何かを言おうとしたまま謎の音を発して固まってしまった。贈り物としては外したかもしれない。

#novel首塚 「面」


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生首が何もないところをじっと見ているので何をしているのか聞いたら、猫がいるという。猫はだいぶ生首と仲良くなったらしく、自分もその猫に寝ている間にグルーミングされていると教えてくれた。それは本当に猫なのだろうかという疑問はあれど、悪い気はしない。

#novel首塚 「猫」


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生首を窓のところまで持ち出して月食を眺めていたところ、生首が自分はあの月と違って常に欠けないと言い出した。確かにそれなりの手続きを踏まないと欠けはしないが円とも言いがたい望月を主張するこの首は、まさか公家だったりしたのだろうか。


#novel首塚 「月」


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流行病につかまり、高熱で眠れない。幸い生首はさほどの世話を必要としないが、生首はこちらの様子を気にしてか気にせずか、枕元で語り始める。

「むかしむかし、あるところに、あらゆる首が家出したお姫様がおりました」

疑問とともに回復の確信を得ながら、眠りに落ちた。


#novel首塚 「流行」


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生首に空前のサメ映画ブームが来ており毎夜感想を聞いている。低予算サメ映画における水場はだいたい湖で、美しい海中は映像素材だと教えたら、ショックのあまり卵を割る産業用機械の動画しか見なくなったのを見かね、本物の湖と海を見せに行くことになってしまった。

#novel首塚 「湖」


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生首によると、生首だけが行ける地獄があるという。転がり心地のよくない坂道に転がされ、止まれそうで止まれないまま転げ落ち続けるというので、地獄なのに針山とかじゃないのかと聞いたら、そんなものがあったら針に刺さって止まるだろうと真顔で返された。

#novel首塚 「坂道」


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生首を古い知り合いが訪ねてくるというが、相手が何者なのかと聞いてもはぐらかされる。その割に用意する茶菓子まで指定してくるところを見ると本当に浅からぬ付き合いなのだろう。訪問者の手土産はなんであれ絶対に食べるなと言ってくる理由は、まだわからない。


#novel首塚 「来る」


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生首に首なし等身大ドールをプレゼントしようとしたら、こんこんと説教されることになった。やっていいこと悪いことがあると言う。あまりに説教が長いので、反省の印に生首のための座布団カバーをパッチワークで作り始めた。生首は期待のあまり、手元を凝視している。

#novel首塚 「つぎはぎ」


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生首に、駐車場を走り回る意外とでかい鳥の話をしたら、それはハクセキレイだと返ってきた。その時の何かがスイッチになったらしく、夜ごと生首に見かけた鳥の話を要求されてその名と生態を語られるので、視界にハトとカラスとスズメ以外の鳥が入るようになってしばらくになる。


#novel首塚 「鶺鴒」


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生首が行方不明になった。自分から動かないから動けないものと思っていたが、家出ぐらいはできるのかもしれない。とりあえず洗濯物を干してから探しに行こうと思ったら、シーツに絡まったまま洗濯機から出てきて、回るのが面白かったと報告してきた。生首以外は洗い直しだ。


#novel首塚 「まわる」


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生首から、冷蔵庫に他の生首がいるとうまく眠れないと苦情が来た。部屋を分けるにも野菜室にはスイカが入っているのでスペースがないと答えたところ、室内スイカ割り大会のはこびとなった。各々の場所で安らかに眠っている生首たちを見ながら、次は外でやろうと大掃除を進める。


#novel首塚 「睡眠」


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生首が旅に出たいというので、行き先と必要な物事を整理した結果、まずは運転免許を取得することになった。生首は筆記試験の問題を音読して解かせながら、美しい風景のカレンダーを飽きもせず眺めている。


#novel首塚 「旅」


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しばらく不在にするから温室の面倒を見てくれ、必要なものはわかると言われた通り、温室に入ると棚に置かれた生首が指示をしてきた。叔父さんはいつも少し説明が足りない。

生首は世話の合間に、謎が多い叔父さんのエピソードを語り始めた。温室はさきほどまでより少し暑い。


#novel首塚 「温室」


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生首と口を利かなくなってしばらく経った。きっかけは些細すぎて忘れてしまったし、不意に喋りかけられない生活もなかなか快適なのでそのままにしていたが、これは言わないといけない。

「首、増えると思うからよろしく」

生首は口と目を開いている。喋るの忘れたのかな。


#novel首塚 「だんまり」


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自分だけのために食事を用意するのは億劫だが、今は生首が向かいに陣取ってあれやこれやと食事の感想を述べるため、だいぶ食卓のバリエーションと彩りが増してきた。ただ、生首がいつどうやって食べているのかはどうしても見られないし、いくら聞いても口を割らない。


#novel首塚 「食事」


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「むかしむかし、あるところに、」

生首が枕元で語り出した。

「スズメバチの栽培が得意なお姫様がおりました」

なに。


気が付いたら朝だった。眠れない夜を退けてくれた生首に感謝しながら冷蔵庫にしまいこみ、カーテンを開けて1日がはじまる。


#novel首塚「むかしばなし」

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