~山着~「怨縁」第三話
この短期間で喜怒哀楽、そして「恐」がめくるめくあなたに襲い掛かり、かなり精神が翻弄され気が変になりそうだった。もはや現実と幻覚と心霊が、何がなんだか分からない最中、バスはどんどんと山頂へとあなたを置き去りにして消えていく。走れなくなるほど追いかけ、息切れが激しく冷たくて乾燥した空気が肺を出入りする。喉が渇き、筋肉疲労の限界で倒れ込む地面がいつのまにかコンクリートから砂利道へと変わっていたことに、手を地面についた感触で気が付く。
呼吸が整い出したころ、ずっと気になっていたこの懐かしい匂いに集中した。今もまだ仄かに香っている。バスを追いかけている最中も香っていたこの匂いは忘れもしない、母が使ってたであろう化粧水の匂いと、父のタバコの臭いだった。あなたがバスに乗車していた二人の人物を父母と瞬間的にそう思ったのも、視覚だけでなく嗅覚からも感じ取っていたのです。
息切れが安定してから、懐かしくもまた涙を流しこの匂いを改めて冷静な状態で嗅いで気が付いた。今まで三度、この山で意識を失い目覚めた時にこれと同じ匂いが微かにしていた。
あなたは不安に苛まれる。まさか、自分に今まで起きてきた『モノ』の正体とは父母だったのだろうか・・・・・・
そんな訳がない。なんの意味があってかも分からないのでこの場は考えるのを止めた。
悲しくも寂しい気持ちになりながらも、ふとまた気が付く。気持ちが非常に落ち着いている事に。さっきまでの怒りや怯え、自暴自棄ま気分が晴れて冷静さを取り戻していた。
時刻はもう、夕暮れ。
太陽が遠くの地平線へと落ちていく。いつの間にか大分と高い場所へと登っていて、眼下の景色は見たことも無い風景で全く見当がつかぬ。
冷静になったあなたは下山を考える。叔父の復讐しようにも今のあなたには何の武器も備えも無く、相手が野獣だったとしても敵う訳がありません。あなたが寝かされていた川まで下って、更に川沿いに行けばどこかには出られるだろう。砂利道を急いで戻り、間に合わなかった場合に野宿が出来るようにと乾燥した枝を拾い集めながら下山して行きました。
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