~山着~「怨縁」第二話
ずっと、車は疎か人の気配一つしなかった空虚な登山道だったが唐突に、いきなり背後から車のエンジン音が聞こえ出した。
振り返ると中型で古びた赤いバスがゆっくりと向かってくる。道中、息が切れるほど急な斜面がありそこをどうやって来たのか不思議に思ったのもあって、普通にバスがやってくることにびっくりしました。そして、そもそもバス停なんて一つも無かったのに・・・いや、その前にこの山は禁足地だよなと自分に頭の中で問い掛けて再確認もした。バスを見た瞬間、乗せてもらおうなんて考えたバカな自分に喝を入れて、また異常な事態なはずだと逃げるように錆だらけのガードレールをまたいで草陰に隠れ、身を潜めた。
そもそも、あちらこちらと木の根などに持ち上げられヒビ割れたコンクリート片が欠けて散らばり、その隙間から雑草が生え揃い、廃れているとはいえこんな場所に道路があるのも変だった。ここは本当にあの山の禁足地なんだろうか。色々と不安になってくる。
バスがあなたの目の前をゆっくりと通り過ぎる。
それを目で追いながら何だか違和感を感じる。普通に走ってはいるのだが、なんだか変だった。その違和感とは、こんなにガタガタで土や雑草の束、コンクリート片や石がゴロゴロとしている悪路なのに、このバスは左右には揺れているが上下には揺れていない。サスペンションが無いのか・・・いや、効き過ぎているのか、よく分からないが異様な雰囲気があった。それは夢の中でみる車のようにゆらゆらしながらも、スーっ、と通りすぎているような非現実的な『モノ』だった。
バスが目前を通り過ぎ、あなたは道路へと出てバスの背後を見つめていると、最後部座席に二人の人物が座っている後ろ姿が目に飛び込んできた。見覚えがあり、決して忘れることのない人物だった。
それは、あなたがまだ幼い頃に死んで亡くなったご両親の姿です。
母はいつも長い髪を後ろで束ね、べっ甲のヘアクリップで髪の束を後頭部で重ねて挟んでいた。うなじがキレイでいつも見惚れていた。
父はこだわりの角刈り。いつも決まった理髪店で毎月のように通い、たまにあなたも付き添いに行っては絵本などを読みながら待っていた記憶がある。毎回そこの理容師さんの奥さんが飴玉をくれて、ついでに自分もサービスで軽く前髪を切ってもらったりしていた。
そんな記憶が今、鮮明に蘇ってくる。
あなたはバスを追いかけた。無意識の反応だった。そんな訳がない。見間違いだろうしこんな所にいる訳もない。それでも、追いかけ走った。
しかし、先ほどまでは人が歩くよりも少し早いぐらいのスピードでずっと走っていたバスだったが、あなたが全速力で追いかけても一向に追いつけなかった。どんどんとあなたとの距離をはなされていき、あなたはまた置いてけぼりにされた記憶と気分を思い出し、ずっと自然と泣きながら走っていた。
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