~海異~ 第七話

 人の足首、くるぶし付近から切り落とされていたかのように落ちていたシューズを見つけてしまったその日の夜。


 あれから当然のように楽しく海水浴をする気分でもなくなり、もちろんいつ警察がきて聴取などを受けるだろう、と思っていたのであなたは旅館で大人しくしていました。晴斗は暇そうにしながらもなんとなく空気を読んでくれていて、だだをこねたりぐずったりもせずに一人でなんとか遊んだり、移動中でも楽しくできるようと持参したお絵描きセットで絵を描いたりしてくれています。

 あなたは凄く怯え、ショックを受けている状態でその表情が隠しきれていませんから。


 靴の内部、足の断面をハッキリとあなたは直視してしまい、その映像が脳裏から離れてくれませんでした。骨が少し飛び出ていて血の気が無くなった肉はボロボロ、そこにフナムシが一匹・・・


 あなたの推測ですが、身体の大部分は魚やカニなどの甲殻類、フナムシのような海の節足動物たちが捕食し、履いていた靴の部分だけが残って浮き、漂い、海岸へ着いたのだろうと・・・・・・


 今思えば他にも何十足もの、特に『スポーツシューズ』が多く点在していたようにも思えます。しかし、あなたはその記憶を辿り再確認しに岩場へいく気には毛頭なりません。警察がきて全部調べてくれるだろうと踏んでいました。


《ああ・・・今すぐにでも帰りたい・・・ここを出て行きたい》


 しかし、第一発見者として警察の人がきたら状況を話さないといけません。


《早くきてくれぇ・・・》


 ひたすら今はそう願っています。


コン・・・コン・・・


「失礼致しますぅぅ」


 女将さんが夕食を持ってきてくれました。


「あ、あの、警察には・・・」

 あなたはすかさず第一希望を質問しました。


「ああ、はい、通報いたしましたよ」

 そういって、夕食の準備にかかろうとします。


「あ、いや、まだ・・・来ていないのですか?あれから、けっこう時間経ってますよね?」


「ああ・・・えっと、ここへ来るまでの国道で”土砂崩れ”があったみたいで。今日は来られないみたいですねぇ」


「え・・・マジですか?」


「明日、撤去作業を開始して、完了次第こちらへ向かうそうですよぉ」

 あなたは絶望的な気分に追いやられました。


「そう・・・ですか。え、でも、迂回の道もあるんじゃ・・・」

 女将さんはそそくさと軽い会釈をして退室していきました。


 最悪な気分です。よりにもよって、今夜の夕食は豪華な海鮮で、堂々と伊勢エビが真ん中で鎮座しているのです。


 あなたは吐き気を催しトイレへと駆け込みます。


 胃の内部の物は全て消化済みで胃液と唾液しかでない。なんとか冷静に落ち着かせて戻ると、晴斗は美味しそうに食事を楽しんでいました。


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