~山着~ 第六話

 あなたは気が付くと、真っ白な世界で横たわっていました。この匂いと雰囲気は、どこか病院のベッドの上のようです。


 少し混乱しています。なぜなら最後の記憶はお墓参りへと行った上の山中だったはず・・・・・・


 いつのまにか寝ていて、どうやってここに居るのかがさっぱり分かりませんでした。




 カーテンの隙間から看護師さんが見え、あなたはすぐに声をかけました。すると

「・・・ああ、気が付きましたか。すぐ先生を呼びますね」


 笑顔で看護師さんが返事をくれて、直ぐに視界から消えます。


 《・・・気が付いた??》

 記憶を辿るのに頭を捻ると、同時に右後頭部に電流の様な痛みが走りました。


《っ・・・たっ》

 痛みがする部分を反射的に押さえると、ガーゼと頭用ネットに触れる。


《怪我をしてる・・・・・・?》

 いまいち頭がぼんやりしていて、記憶が曖昧です。


《転んだ?》


 そんなことを考えている内に、白衣を着た典型的なお医者さんが足早にやってきます。



「ああ、気が付きましたか。頭の怪我は大丈夫ですよ。軽く”たんこぶ”が出来ただけで頭部裂創も無いし骨にも以上はないです。他に外傷や異常も見受けられません。念のためMRIにて脳も見ておきたいので、また呼びにきますね。他にお体の異常は何か感じられますか?」


「・・・いえ、大丈夫です」


「そうですか。ではまた・・・・・・」


 一般的な診察を受けながら、必死に思い出そうとあなたの頭の中は大忙しです。






 MRI検査の結果も問題は無く、そこそこ広いフロント、と呼ぶべきか、誰もいない待合室へと向かい長椅子へと腰をかける。


「誰か、迎えに来てくれる方に連絡できますか?それともタクシーを呼びましょうか?」


 受付の女性が優しく話しかける。あなたは叔父へと連絡を入れました。



 その後、自分はここへ来た経緯を受付の人へ聞きます。あなたが道路沿いで倒れている所を通りがかった人が119番し、ここに担ぎ込まれたようです。その場所は例の禁足地のあるの山のふもとだそうで、少し驚きました。あなたの最後の記憶、倒れていたとされる場所とは一山ほど越えた反対側の霊園だったはずです。たった数時間で、しかも徒歩で越えて行けるような距離でも道中でもない。人が通れる道があったとしても獣道ぐらいなはずなのです。



 思い出そうとすればするほど、どんどんと怖くなってきました。荷物は全て、携帯もサイフも無事です。せめてお金だけでも盗られていればまだ安心できますが・・・・・・




 薬を貰い会計も済ませて、あとは叔父をただ待つだけの状態でした。



「あ、一応、警察の方から明日にでも連絡があるんじゃないかな。事件性があるかどうかの確認は入ると思うから、連絡先をここに記入お願いできますか?」


「あ、はい」


 そんな事務的な処理や説明を受けていると、叔父が駆けつけてくれました。


「・・・あ、大丈夫?!」


「はい、すいません、ご迷惑おかけして・・・・・・」


「ええよええよ、とにかく無事で良かった!」

 そう言って、とにかく病院も外来時間外でもあるので受付の人に一礼をして、そそくさと退院しました。


「とにかく、何があったん?野生の動物か何かに襲われたと?」

 叔父は気がきではない様子です。


「・・・多分、と思います」


「多分?」


「あ、えっと、ハッキリと覚えてないんです・・・・・・」


 あなたは叔父に本当の事を言うかどうかを悩んでいました。


「え、頭打ったみたいやし、もしかして記憶喪失、とか?・・・・・・」


「んー・・・・・・」


 少し考えましたが、叔父にはそのまま真実をありのまま話そうと決心しました。信じてもらえるかどうかはどうでもよく、ついでにおばあさんが言っていたことを聞こうと思いました。変なことを言ってると思われても「頭を打った」ということを利用できるという風に。






「・・・・・・」


「・・・え?禁足地の山で??」


「はい。その麓の道路沿いで倒れていたみたいなんです。最後の記憶は、おばあちゃんのお墓参り。こっちに来たついでに行ってただけなんだけど・・・・・・」


「??ばあちゃんの?そこはあっこの反対側の、ひと山超えたとこやで?」


「はい、だから・・・分からないんです。お墓参りの後に時間があったから、少し上へと登ろうとして・・・そこから何も覚えていない。山を越えたつもりなんてないんです」


「ん~、まぁそりゃそうやろ、あっこの霊園からひと山越えるなんて、素人が無暗に入って日中だけで出来ることやないで。富士山のちゃんと人の手が入った道があって、んで登山から下山に十四時間ぐらいかかるんよ?大自然じゃ方向も視認できずに迷うことこそ当たり前じゃけの。遭難する確率のが高い程や。補正された道なんて山沿いの迂回経路の車道や、山々の間、谷に沿って作られた道ぐらいしかないしなぁ、あの辺は」


「あの・・・あそこって、なにか変な噂や話って、本当にないんですか?」


「ん~?・・・いや、無い、こともないけど・・・・・・」


「どんな話ですか?」


「・・・お墓へはなにで行ったん?バスけ?」


「あ・・・自分の車です。霊園の駐車場に停めてます。そこに、車が停まったままだったら、信じてもらえますか?」


「ま、まぁ待ちいや、別に疑ってる訳じゃないけぇの、最悪、誰かに攫われて連れてかれたってのもあるわけやし・・・・・・」


「何のために?」


「知らんけど・・・・・・」


「一応、なにも盗られていないし、怪我もこの”たんこぶ”だけなんですよね・・・殺そうとして、これだけで踏み留まったとか?」


「まぁ、有り得なくはないけど、なぁ・・・・・・」


「フッと、意識を失った・・・そんな感じなんです。映画のような、頭を殴られて気を失ったような感じではないんですよ。あ、もちろんそんな経験なんて無いから分んないけど・・・・・・」


「そりゃ、そうやろな・・・まぁ、とりあえず今日はまだ運転とかは止めとき。運転中にフラフラしたりしたらそれこそ危ないやん?明後日、ぼく仕事休みやしその時また送ったるわ。車あるかどうか見に行って、有ったら拾いに行こ。あそこの管理人の隠坊さんは僕とは顔なじみやし、事情説明してちょっとそれまで停めてもらっとくよう連絡入れとくし。な?」


「はい・・・そうですね。でも、なんで・・・自分でも不思議です。まるでみたい・・・・・・」


「・・・まぁ、頭の打撲以外の外傷もなんも無いて医者は言うてたんやろ?今日、明日はうちで安静にしとき」


「はい。なんか・・・本当にすいません・・・・・・」


「あ、ええよええよ、なんかよう分からんけど、道端で倒れてたなんてただ事やないからなぁ」


 叔父は元気づけようと、頑張った笑顔でその後も会話を続けてくれました。あなたも叔父も、なんだか今は深く詮索するのは怖い・・・というか、気持ち悪いような気がして、叔父の何気ない別の会話でその場を濁しました。

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