5.オーナー
「こ、こんにちは……?」
「ええ、こんにちは。あなたがとてもとてもおいしそうに食べるものですから、事務仕事を早々に終わらせてしまいました」
「は、はあ……」
株式会社緋川グループ、業務内容は多岐に渡るため、適当なことに「口に入れるモノ全般に携わる」とよく説明される。食品も薬品も飲料も、アルコールや歯ブラシ・歯磨き粉まで取り扱っている。名前を出していなくても、出資や共同開発で関わっていたなんてこともよくある。こっそりアダルトグッズまで売っていたりもする。当然口にまつわるモノだけだが。
「緊張しないで、と言っても難しいか。おいしそうに食べてもらえると、うれしいからね」
「そんなものですか」
「そんなものだよ。あ、見られていると食べづらいよね」
「……そのままで大丈夫ですよ」
「本当かい、うれしいな。わたしは、ニュースにもなるくらい交友関係が狭いものでね」
「あー、何かしらで見た記憶が」
そう、この男、緋川 逆月は、極端に交友関係が狭いことでも有名である。理由は定かではないが、ともかく卑しいマスメディアがつついても埃一つの情報も出てこない。家族構成すらも不明で、両親は存命なのか、兄弟はいるのか、パートナーの有無も、当然わからない。友人すらも、すでに顔が割れている数名以外不明だ。もしかしたら、いないのかも知れない。あり得ない話だが、木の股から生まれてきたと抜かす輩がいるくらいには浮世離れしている。
ならば、このリストランテはその希薄な交友関係を解決するためのものだろうか?
「……あの、ここの名前読めなかったんですよね。学がなくて」
「いやいや、これはわざと誰も読めないようにしただけだよ。有名になりたいわけじゃないからね。そもそも、そんなことしなくても有名だけど」
「意地の悪い」
「はは、おっさんのちょっとしたいたずらだよ。店名は『グラナト』と読む。ラテン語のザクロをちょっといじったんだ」
「へえ、ザクロ。ヒトの肉でもお出ししておいでで?」
「一般のお客さんに出せるわけないでしょ!」
「……クソガキの冗談だったんですがね」
冗談を交わして判明した事実。このリストランテは、特定の客に人肉料理を提供するカニバルレストランだったのだ。焔木 業は、諸悪の根源を糾弾しようとする。しかし、緋川 逆月はつらつらと語り出す。
蒼白な顔面からこぼれた言葉が、床を這うように紡がれる。
「ヒト科は、元から同族食いをするように創られていると言ったら、信じてくれるかい」
「言い訳ですかね」
「遺伝子に刻み込まれていると言っても尚?」
「……聞くだけなら」
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