サヤカ⑥
ある日の夕方、コンビニに向かって歩いていると久しぶりにママの姿を見つける。
ママは痩せ細ってしまって顔色も悪い。
娘を亡くしたんだから当然といえば当然か。
まだ立ち直れていない様子に声をかけるか悩みに悩んでスルーして立ち去ろうとしたとき、
「タクヤくん!!!!!!」
ママに呼び止められる。
「タクヤくん!ここにサヤちゃんがいるのよ!謝って!お話ししましょう!会館で!先生のところで!お話ししましょう!もうサヤちゃんも怒ってないわよ!ね!」
ママはマシンガンのように訴えながら小さな巾着袋をワタシの手に無理矢理握らせ、腕をひいてどこかへ連れていこうとする。
「ちょっと待って!落ち着いて!!……下さい…」
しばらくぐいぐいと進んで、はっと止まってまたママが話し始める。
「事故のことは大変だったわね…、でもね、サヤちゃん肉体はなくなってしまってもサヤちゃんの魂はここにいるのよ、ずっと近くにいるの。タクヤくんのこともずっと心配しているわ。 お話ししてあげて?」
さっきの巾着袋を大切そうに抱え、撫でながら微笑む。
穏やかで優しくも怪しい笑顔に背筋が凍る。
現実逃避か藁をもすがる思いだったのか、あれからどんな信仰を信じるようになったのか知らないけれど「サヤカの魂」は今目の前にいるのにママは娘の魂と信じるナニかを大切にしている。
なんて皮肉な話なんだろう。
悲しくて虚しくて情けなくて、それ以上言葉にできない感情に涙が溢れた。
ママはワタシの涙を見て
「タクヤくん…、サヤカと会えてよかったね、会館に行けばお話しできるわよ!」
「サヤちゃんもタクヤとお話ししたいわよね!よかったね!」
と更に畳み掛けてくる。
タクヤの家のすぐ近くだったのでたまたま通りかかったタクヤのママが「タクヤ!!!!!!!」と大声で叫びワタシを抱き込む。
耳元で「家入って鍵を閉めなさい、はやく」と囁き、離された。
ワタシは言われるがまま家の玄関に走る。
ワタシのママが追いかけようとするところをタクヤのママが制止する。
玄関に入って聞き耳を立てていたけど、ママ同士の会話はどんどんヒートアップしてすぐに怒鳴り合いに発展した。
あまりに悲しい言い合いにとても聞いていられず玄関に座り込み耳をふさいで声を殺して泣いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます