タクヤの母

息子が彼女とのデート中に車で交通事故を起こしてしまった。


幸いにも息子は怪我も軽く無事であったが同乗していた彼女のサヤカちゃんは即死だったそうだ。


息子たちが搬送された病院にはまず私が先に到着し状況を把握。その後、サヤカちゃんのご両親、私の夫の順に到着した。


極限の状況だったのでもしかしたらサヤカちゃんのご両親には配慮が足りなかったかもしれない。


でもサヤカちゃんのご両親はまるでタクヤが加害者のように責め立ててきた。


タクヤだって怪我をしているのに…。

あまりにも残酷で冷酷な目をこちらに向けてくる。


はじめの頃は、むこうのご両親の気持ちも理解できたがだんだん納得行かないモヤモヤが積もってきて私は次第に逆恨みから息子を守ることだけを貫くようになる。


夫は事故の状況がどうあれ運転していた息子の責任だと、サヤカちゃんのご両親に何度も何度も頭を下げ続けた。今でも時々ご自宅まで通っている。


最近では「娘の魂に謝ってください」と見知らぬ雑居ビルに連れていかれて変な儀式を受けたとか。

それでも夫は謝り続ける。見えない魂に必死に謝ってきたそう。


ずっとずっと門前払いが続いたが、魂はそばにいるからと急に穏やかになったあちらのお母様がタクヤや私たちをその魂と会えるという施設に誘いに来るようになった。


夫だけは相手の要求に応えていたが、私は怖くて怖くて居留守を使い、タクヤにもそんなことが起きていることは隠し続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る