第11話

 ニュウが黒い鞄を持ってきたので、一応中身を確かめる。 

 さすがは優秀な助手。必要なものは中に入っていた。

 確認が終わると、四人一緒に外へと出る。


「ニュウ、留守番は任せるからな。何かあったらいつものように連絡してくれ」

「任されたのであります! お気をつけて行ってらっしゃいませ!」


 診療所はニュウに任せていれば大丈夫だ。大抵の治療もこなすことができるし、もし手に負えない事態があっても、彼女ならば〝力を使えば〟連絡することができる。


「――さて、できれば急ぎたいからな」


 リントは白衣の下に着用しているシャツの襟元から手を入れて、あるものを取り出す。

 それは、糸で繋がれた一つの角笛。

 笛を口元へと持ってきて吹く。音は――聞こえない。


 何故ならこれは人が聞き取れる周波数の音ではないから。

 ランテとリリノールは、リントのしていることの意味に理解できずに首を傾げている。

 すると、空の向こうから〝ナニカ〟が診療所に向かって飛んできた。


「ちょ、ちょっと、何か来るわよっ!?」

「ラ、ランテ~!」


 二人して抱き合って怯えている。

 それもそのはず。こちらに向かってきているのは、明らかに人の十倍ほどの大きさを持つ――怪鳥なのだから。

 鳥は頭上まで来ると、羽ばたきの速度を徐々に緩めながら地上へと降りてくる。


 美麗な白銀の羽毛を持つ巨大な鳥。ルビーのような瞳が、眼下にいるリントたちを射抜いていた。

 物凄い風で飛ばされそうになっているランテたちの背中をリントが支えてやった。


「ちゃんと踏ん張っとけよ」

「う、うん、ありがと……って違う! これモンスターよね!?」

「ふぇぇぇぇぇ~っ!?」


 リリノールが相当怖いのか顔をランテの胸に埋めて悲鳴を上げている。

 鳥が地上へ降り立つと、威嚇するように、


「キュエェェェェェェェッ!」


 と鳴く。

 そのせいでさらにランテたちの恐怖感を仰ぐ。


「ははは、よく来てくれたな。今日も頼むよ――センカ」


 リントは笑いながら、下げてきた頭を優しく撫でてやると、とても気持ち良さそうに目を細めている。


「あ、あ、あのぉ……」


 ランテの絞り出すような震えた声が聞こえる。みなまで言わなくても分かっていた。説明がほしいのだろう。

 しかし説明をしたのは、いつの間にか診療所内に逃げていたニュウである。


「この子はセイントホークのセンカちゃんなのであります!」

「セ、セイントホークゥゥゥゥッ!?」


 ランテが目を剥いて驚きを露わにする。


「もしかしてご存知なのでありますか?」

「し、知ってるも何も、セイントホークっていったら絶滅危惧種に指定されてるモンスターでしょ!? 何でこんなとこにいるのよ!」


 彼女の言う通り、セイントホークと呼ばれる種は数が少なく、絶滅危惧種と世界認定を受けている。ただ地球みたいに、だから保護しなければという考えはないようだが。


「コイツはオレの家族なんだよ」

「か、家族……?」

「そ、家族。大切な……家族だ」


 その言葉が嬉しいのか、センカもグリグリと黄色い嘴を胸に摺り寄せてくる。これは彼女(性別は雌)が嬉しい時や甘えたい時にする行為だ。


「悪いなセンカ。ちょっと【リンドブルム王国】まで一っ飛び、頼めるか?」

「キュエェェェェェ~!」


 任せろ~と言わんばかりに応えてくれるセンカに「サンキュ」と言って笑う。


「ほれ、さっさとセンカの背中に乗れ」

「へぇ!? の、乗るのぉ!?」

「こ、怖いよぉ、ニュウちゃ~ん!」

「何故リリノさんはニュウに抱きついてくるのでありますかぁ!?」


 抱きつかれて恥ずかしそうに引き剥がそうとするが、リリノールは必死にしがみついているようだ。


「早く診察に行くに限るだろ? ほら、さっさとしろ。ハリーアップ!」


 リントに急かされて、泣く泣くランテたちがセンカの背に乗っていく。二人は完全に腰が引けているのが面白い。


「しっかり掴まってろよ。んじゃ、行ってくるなニュウ」


 ニュウが見送ってくれる中、センカがはばたき空へと飛翔する。


「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」

「アハハハハハ! やっぱ空は最高だなぁ! よーし、全速前しぃぃぃぃんっ!」

「「下ろしてェェェェェェェェェェェッ!?」」


 二人の少女が泣き叫ぶ中、リントは患者が待つ【リンドブルム王国】へ目指して飛んだ。





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