第26話 他校の事情と、塩ラーメン

「くはああ! イクタのおっちゃん、塩ラーメン最っ高!」


 ミュンが、丼の中身を飲み干した。


 ラーメンには程よい塩気と、ホタテのダシが凝縮されている。


「これはもう、ラーメンの可能性がまた広がるね!」


 ホントにラーメンが好きなんだな。


「つっても、まかないだぜ」


「本当においしいですわ。イクタも自慢なさって」


 デボラからも、太鼓判を押される。


「おじはさー。カレー以外を作らせても天才だよねー」


 プリティカまで。


 たしかに、うまい。魚介のダシと、細麺が絶妙に絡みつく。これは、病みつきになる味だ。


「ただ、これだけうまかったら、学食のラーメンなんて食えなくなるんじゃ?」


「あれは、あれでうまいんだよ。安いし、クセがない。その分、もう一度食べたくなる。何度も食べたいって気持ちにさせてくれる。それが、オーソドックスって味なんだ」


 そう言ってもらえると、こちらとしてもうれしい。


「おかわり!」


「試合前だろ? 大丈夫なのか?」


「今回は体調管理がバッチリだからな。ある程度、絞っている」


 力こぶを見せて、順調をアピールした。


 オレは、二杯目を用意する。


「おっ。毎度どうも、イクタ氏。みんなもお揃いだな?」


 店に現れたのは、キャロリネだ。ヒョウ柄のビキニを着ていると、アマゾネスっぽく見える。同じ柄の、腰蓑までつけていた。プリーストじゃなかったら、槍かモリを持っていそうだ。 


「キャロリネ、中学以来だな」


「おう。ペル・セポネではないか」


 二人が、あいさつをする。


「ペルとキャロリネの二人は、同じ中学なんだな? 親しいのか」


「そうでもない。クラスが離れていて、これといって接点はなかった。強いって話は聞いていたんだが。あたいはプリーストとして、修行中の身だ。親しくない相手とケンカなんて、してはならぬ」


 直接話したのは、今日が初めてだとか。


「お互い、緊張していてな。うまく話せなかったんだよな」


「会えてうれしいぞ、ペルよ」


「あーしもだ。よろしくな、キャロリネ」


 ペルとキャロリネが、握手を交わす。


「ちなみに、オイラは二人の一年先輩だったんだぞ」


 ふむ。エドラ、キャロリネと、ペルが同じ学校だったと。


「けど、キャロリネはエドラに敵わないって」


 さっき、プリーストの修行中は、ケンカしないと言っていたな。


「体育祭のかけっこも、体力検査も、全部負けたんだ」


 なるほど。そういう意味か。 


「ペルは今、共学の魔法学校に通っているんだよなー」


ミナミ安毘沙州アンビシャス学園』という、モンスター育成学校だという。


「わが地方屈指の、不良校でなぁ。常に諍いが耐えない」


 この間倒したスキュラも、その生徒らしい。


「殺したんだろ? 大丈夫なのか?」


「死んではいないさ。あれは召喚獣であり、術師の肉体の一部さ。本体の強さは、あんなもんじゃない」


 戦っていたら、ギリギリだったという。


「しょっちゅう、ケンカするのか?」


「まあね。昔はエイブラハム先輩……エイドリアン姐さんのお兄さんが学校を仕切っていたんだけど」


 エイブラハム卒業を期に、また学園内が荒れてしまったらしい。


「転校も、視野に入れている」


「そんなに、通っている学校がイヤか?」


「違う。見識を広めたいんだよ」


 こんな田舎学校で過ごしていたら、いつまでたってもエドラやキャロリネに追いつけない。ペルは、そう語る。


「立ち話もなんだ。ラーメンを食っていきな」


「そうさせてもらう。ズルズル……あはんっ」


 なぜか、キャロリネが喘ぎだす。


「キャロちゃん、メスの声が出てるー」


「ち、違う。これはラーメンが熱すぎて、変な声が出てしまったんだ!」


 必死で弁解するが、また「あはん」とキャロリネは艶っぽい声を出した。


「すごいですわ。イクタは料理でさえ、女性を魅了してしまうなんて」


「オーク族はすぐに臨戦態勢に入れるように、五感が発達しているのじゃ」


 デボラの疑問に、パァイが答える。


 おそらく、味覚が異常に敏感なのだろう、と。


「臨戦態勢になるとは、常に戦闘モードということですの?」


「まあ、オトナになれば、わかるじゃろうて」


 それ以上の追求に、パァイは言葉を濁した。 


「そうなんだ。おいしいものを食べると、嬌声が漏れてしまう」


 本人も、自覚があるようだな。


 プリーストになったのも、煩悩を捨て去ることが目的らしい。粗食をモットーにしているとか。しかしその分、美味に出会うと止まらなくなるそうだ。


「だからもし、主夫になりたいって男性がおいしいメシなんて作ってくれたら、あたいはもう、すぐに妊娠してしまうだろうな」


 腹が大きくなる様を想像して、キャロリネが自慢のシックスパックを撫でる。


「あたしは、アンタのたくましい肉体がうらやましいけどね」


 パピヨン・ミュンが、キャロリネのお腹をさすった。二人は、体格差が二倍近くある。


「ミュン先輩は、そのスピードと死角からの攻撃が売りだ。持ち味を活かすべきだろう」


「まあね。ないものねだりしても、仕方がないか」


「そうだ。うふ、ん」


 また感じてしまったのか。


「じゃあ、腹ごしらえも済んだし、ヌシ釣りに行くか」


 おやつ用のおにぎりを用意して、岩場まで向かうことになった。


 オレも保護者として、同伴する。

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