学食でお造り!? ヌシ釣り、二夜連続!

第25話 番長、生徒会長、チャンピオン

「おー。イクタのたいしょー」


 釣り竿を持って、エドラが現れた。隣にはミュンと、生徒会長のイルマが。


「エイドリアンの姐さん!」


「うおー。誰かと思えば、義妹ちゃんじゃねーか!」


 種族が違う同士なのに、エドラとペルが抱き合う。


 エドラの本名って、エイドリアンっていうんだな。


「親戚か?」


「つい最近、義理の姉妹になったんだ」


 ペルは、エドラの兄貴に嫁いだ奥さんの妹だという。そんな縁だったとは。


「くみちょーの娘だから、立場的にはオイラのほうが下なんだけどな」


「何を言うんだ? 姐さんには敵わないよ」


「そうかー?」


 二人とも、仲がよさそうだ。


「ごきげんよう。みなさん」


「お前さんは、サーフィンか」


 でかいボードを、イルマは小脇に抱えている。


「いえ。これはボード型のビート板です。午前中は、エドラの泳ぎの練習を」


「意外だ。エドラって泳げないのか?」


「ドワーフ族は、火の加護を受けています。なので全員、基本はカナヅチです」


 種族的な問題があるとは。


「今日は特別コーチとして、ミュン先輩にも来ていただきました」


「ラーメンをおごってもらえると聞いてな!」


 サムズアップをして、ミュンが白い歯を見せた。相変わらずの、ラーメン好きである。


「イクタのおっちゃん、ラーメンできるでしょ?」


「できるぞ」


 ポントスの店で厨房を借りるから、海の家仕様だが。しかし、なんとも言えない味がして病みつきになる。


「それはそうと、パピヨン・ミュン先輩。学生対抗戦、応援に向かいます」


「ありがと、デボラ! 今、試合に向けて調整中なんだけど、泳ぐメニューがあってさ」


 生徒会長に頼まれたため、ついででやらせてもらっているそうだ。 


「午後は、オイラがイルマに釣りを教えるんだぞ」


「釣りか。いいな」


 パピヨン・ミュンへの必勝祈願に、ヌシを釣り上げるつもりだとか。


「釣りの師匠は、エドラなんだな?」


「もちろん、イクタ師匠にはお料理も教わりたく」


 いや、勘弁してもらいたい。


「オレもやりたいな。みんなで行こう」


「いいねえ!」


 今日は店を早くたたみ、釣りに興じることにした。


「イクタ、稼ぎはよろしくて?」


「あくまでも、本業はポントスの屋敷の手伝いと、パァイをあちこちに連れ回すことだ」


 オレが夏休み中にやっている仕事は、基本的に道楽である。稼ぎは気にしていない。


「では、着替えてきますので」


「おう。足元に気をつけてな」


 ポントスの運営する売店へ、三人は向かった。

 



「ほら、もっと足を上げて」


「やってるそーっ!」


 エドラは泳いでいるというより、もがいているように見える。


 スレンダーなイルマが着ているのは、ブルーのヒモビキニだ。腰にはパレオを巻いている。


 ハーフドワーフなためか、エドラは幼児体型ながら巨乳だ。水着は、ホルターネックのワンピースである。

 マニッシュ、つまり中性的なデザインなタイプにしたようだ。

 大人っぽく見えるから、背伸びしたい年頃か。背丈は、デボラよりちょっと背が高いくらいだが。


 泳いでいるさまは、まるで子どものようだが。


 ミュンが、二人の様子を見ている。露出を若干おさえた、スポーティなタイプにしていた。それでも競泳水着のようで、そっち系のマニアが喜びそう。


「うーん。そもそも浮くのか疑問だね」


「浮きますよ。だってほら」


 エドラの胸を、イルマが後ろから揉みしだく。


「うわー。なにをするー」


 海の中で暴れたせいで、エドラは足を滑らせて沈んでいった。


「おじ、うらやましい?」


 オレが海の方ばかり見ていると思ったのか、プリティカが茶化しに来る。


「バカ言うなっての。仕事するぞ」


 気を取り直して、かき氷を削る作業に戻った。


「なんだか、イクタはエドラ先輩がお気に入りのようですわ」


 テーブルを拭きながら、デボラが頬をふくらませる。


「いや、なんでそうなるんだよ?」


「だって、わたくしでさえ、おデートなんてしていませんのに」


「デートなもんか。買い物に付き合ってもらっただけだ」


「それがデートなのですわ!」


 なんか、デボラはエドラとオレとの関係に、やきもちを焼いているようだが。


「誤解するな。オレは生徒の誰とも、交際はしていない」


「もちろんですわ。わたくしがその第一号になりますのに」


 いやいや。話を聞いていたか?

 



 あちらは、泳ぎの特訓を再開したようだ。


「姐さん、ガンバです」


 ペルが、陰ながら応援している。


「ラーメンとかき氷を、用意しておいてやるか」


 店をたたみ、海の家に向かった。ラーメンの準備を始める。

 魚介ラーメンにするため、ホタテを焼く。ダシはアサリと昆布で取って、塩ラーメンにする予定だ。アレンジで、バターを入れてもいいかな。


「いい香りですわ」


 焼けるホタテを見ながら、デボラがウットリした顔に。


「おじは、エドラちゃんがお気に入り?」


「どうだろう? 世話は焼きたくなる感じかな? えこひいきは、いかんが」


 波長は、生徒の中で一番合うかもしれない。エドラは魔法学校では珍しく、平民出身だし。


「姐さんは近々、騎士になるからな」


「お前さんの実家って、どこかの組だろ? お姉さんが平民の家に嫁いだことで、モメたりはしなかったのか?」


「まったく。懇意にしていたからな。というかあの家系は、辿っていくと引退したよその組の、大親分なのだ」


 なんとまあ、エドラってそんな血統だったのか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る