第22話 水着姿の魔法使いたち

「すごいな、二人とも」


 更衣室から、デボラとプリティカが現れる。


 寸胴な体型に合わせたのか、デボラはフリル付きのファンシーなタイプを選んだ。柄も花を意識していて、身体の線より水着に視線が行くようにしているのか。


「プリティカさんの隣に立つと、自身の貧相さが際立ちますわね」


「ウチは、たくさん食べてるからねー」


 プリティカが、腰に手を当てた。ダークエルフの褐色肌に、白いビキニが映える。しかもヒモだ。


「デボラちゃんさー。スク水で接客しようとしたんだよー」


「だって、あまり攻めた水着を着ては、動きづらくて接客に支障が出ますわ! これは妥協点なのですわ!」


「ふうん。その割には、気合が入っているみたいだけど」


 プリティカが、デボラに背中を向けさせた。


「後ろを見ると、ビキニに見えるタイプの水着なんだよね」


「それを選んだのは、プリティカさんですわ! 第一、淫紋を隠してくださいまし!」


 淫紋とな。たしかに、プリティカのヘソの下に、ハート型のタトゥーが入っていた。


「大丈夫なのか? 客商売だからな。そんな反則技をされると」


 一般人を相手にするにあたって、淫紋はあまりオススメできない。術師本人にその気がなくても、勝手に相手が魅了されてしまうからだ。


 かき氷を売るだけなのに、淫紋を操るのはオーバーキルすぎる。味で勝負とまではいわないが、なんだかズルに見えちゃうよな。


「大丈夫ー。ウチ、コントロールできるから」


 その訓練を兼ねて、ヒモビキニを着用しているという。上に、露出を抑えるためのデニムも履かない。


「履いた方が、オシャレなんだけどねー。練習になんないからー」


「でも、ナンパとかやばくないか?」


「いいのー。この腕時計をしていたら、誰も寄り付かないからー」


 プリティカが、アンティーク調の腕時計を見せた。術式文字が刻まれた金属の輪で、文字盤を囲んである。


「なんだ、そりゃ?」


「ナンパ避けー。自由研究で作ってみたんだぁ」


 腕時計を魔法石でデコレーションし、やましい考えの男性を遠ざけるという。


「男性避けなら、オレにも効いてしまいそうだな?」


「イクタおじはー、いやらしくないからー」


 だったら、いいか。


「あの。これは少々大胆すぎるのでは?」


 未だにパァイが、更衣室から出られずにいた。入り口の隙間から、こちらを覗いている。


「パァイパイセンも、こっちにおいでよー」


 プリティカがムリヤリ、パァイの腕を引っ張った。


「うわあ」


 ヨタヨタと、パァイがつんのめる。


「大丈夫ですの?」


 デボラが、パァイを抱きしめた。


「うむ。なんとかのう」


 パァイが、身体をシャンとして立つ。


「見てー。バンドゥにしてみたよー」


 バンドゥとは本来ヘッドバンドの意味を指し、頭に巻く布である。それを、水着に応用したものだ。肩ヒモがない水着のことだ。胸のフリルがアクセントとなっていて、露出は多少抑えられている。


「魔法文字を刻んで、男子の視線を遠ざけることにしたぞい」


「まあ、それが妥協点かなー?」


 アゴに指を当てて、プリティカがうなずく。


「しっかり宿題をしてこいよ、パァイ」


「うむ。心得ておる」


 クレヨンと自由帳を持って、パァイは兄のポントスに返答する。


「宿題とは、なんですの?」


「絵日記だ。毎年書かされる」


 パァイがちゃんと『読書以外の興味を示しているか』、学長から出題されるのである。


「毎年、面倒な」


「いや。お前は大概、外に出ねえからな」


 こんな機会でなければ、パァイはずっと読書をしてしまう。


「ささ、店を開くぞ。みんなこっちに来い」


 キッチンカーなので、人が乗るスペースがない。


 オレが運転をして、海の近くまで移動させてある。


 駐車場スペースに丸テーブルを設置した。席にパラソルを差して、完成っと。

 



「リックワード女学院・学食で一番人気! イクタ特製のかき氷、いかがかしらー?」


「おいしーよー」


 ワゴンの外から、呼びかけをしてくれている。


 美少女二人が接客してくれるからか、大盛況だ。


「はーい。カップル仕様のレインボーかき氷、おまちどー」


 プリティカが、若いカップルに対応している。勝手にシロップで、アレンジをしているが。


「はい。いちご味が、定番ですわ」


 小柄で安心感があるのか、デボラには家族連れが大量に押し寄せた。


「今日は、時間停止をなさらないんですわね?」


「削っている音が、いいからな」


 かき氷の醍醐味は、氷を削る音だと思っている。この風情こそ、うまいのだ。


 学食では時間との戦いなので、人を待たせてはいられない。


 その点、かき氷は作っている工程も見ていて楽しいものだ。


「うむ。毎年思うが、みぞれが激ウマじゃのう」


 透明なシロップのかかったかき氷を、パァイが何杯もお変わりしている。彼女の仕事は、いわゆるサクラだ。うまそうに食べてもらうのが、仕事である。


「いつも、ありがとうな。パァイ」


「礼には及ばぬ。実際うまい」


 何杯目かのおかわりをして、パァイはまた席に戻った。



 今年も大盛況で、かき氷販売は成功である。


「じゃあね、おじー。明日は、ギルドに顔を出すからー」


「おう。気をつけてな」


 明日は冒険者ギルドで、デボラの自由研究を行うそうだ。


 帰り支度を済ませ、エンジンを掛けようとしたときである。


「イクタ! かき氷を! いえ、氷でいいですわ! 大至急!」


 慌てた様子で、デボラたちが引き返してきた。デボラは、手に何かを持っている。


 あれは、スライムか。


「何があったんだ?」


 スライムに、残り物の氷を食わせる。


「わたくしが明日向かうダンジョンの温泉が、干上がってしまったそうです!」

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