ダンジョン遠足と、お弁当

第17話 ダンジョン遠足と、お弁当

「イクタ。お金を払いますので、お弁当を作ってくださいまし」


「遠足か」


 オレは、カレンダーをチェックする。


「ダンジョン探索ですっ」


 デボラは明日、学校の近くにあるダンジョンへ向かうという。ダンジョンの構造や用途、危険性を学ぶためだ。試験の結果に直結するので、休めない。


「おやつは買いましたの。こちらに」


 チョコレートやハーブキャンディなど、お菓子に変えたポーションが並ぶ。


 いくらポーションが便利でも、子ども相手にはきつすぎる。またクセが強く。子どもの舌では受け付けない。


 そこでお菓子会社が、ポーションや薬草を菓子類に変えて販売しているのだ。


 大型の雑貨屋に行けば、購買には置いていないようなガッツリしたお菓子も売っている。


 それでも、「予算内に収めなさい」と学校から言われるが。


「あとは、お弁当だけです」 


「仕出しの弁当なら、出すぞ」


 リックワード女学院の生徒は、寮生活者ばかりだ。たいがい、自炊をするような子たちなんていない。寮の食事も、寮長が出す。


 なので、弁当を作れない子どもたちの代わりに、仕出しを用意する。予約しておけば、学校から弁当をもらえるのだ。


「あなたのお弁当がほしいのです。仕出しですと、ランダムでしょう? 指定できないのです」


「そういう決まりだろうが」


 弁当を作るのは、ウチの店だけじゃない。他の店も、弁当を出す。おそらく、カフェオッサンのナポリタンセットが人気だろうな。


「わたくしは、遠そ……ダンジョン探索に行けないイクタと一緒に、旅がしたいのですわ」


 アイテム用バッグは万能なので、激しく動いたとしても弁当は崩れないらしい。オレは、使ったことがないが。


「イクタの愛情がこもったお弁当が、食べたいのです」


 うっとりした眼差しで、デボラが見つめてくる。


「愛情ねえ」


 誰にも等しく、おいしく食ってもらいたいって作っているつもりだが。


「お願いです、イクタ。一晩をともにした仲ではありませんか」


「不本意だったんだがな!」


 仕方ない。皿洗いで世話になっているし。ムリに断ることはできないだろう。


「わかったよ。その前に、好みを教えてくれ」


「仕出しはカツサンドなんですわね?」


 うむ。仕出しの方は、カツサンド、ポテサラ、斜め切りのウインナー、プチトマトだ。お菓子があるから、デザートは入れない。


「カツサンドはいつも食べていますから、違うものがほしいですわ」


「じゃあ、おにぎりだな」


「おにぎり。お弁当の鉄板ですわ」


 うれしそうに、デボラが手をパンと叩く。


「冒険者ともなると、モンスターがドロップしたおにぎりを、地面に落ちたものでも召し上がるとか」


 ゲームかよ!


「あとわたくし、あれがほしいんですのっ。タコさんのウインナーとかいう謎の料理を」


 地球の文化を学んだときに、教わったという。


 魔法が使える世界から見ると、地球の科学文明は特殊に映るんだなぁ。隣の芝生は青い、ってやつか。


「別に、謎でもなんでもねえぞあんなの」


「仕出しのお弁当に入っているウインナーには、そんな切り方をしていませんわ!」


 デボラが、壁に貼られている弁当のポスターをバンバンと叩く。


 一応全店が、完成品の写真を壁に展示している。アレルギー持ちがいると、困るからだ。問題があれば、仕出しのメニューを変えなければならない。


 特に問題はなく、調理も複雑なものはなかった。


「他は卵焼きを。あと、リンゴをウサギさんに切ってくださいまし」


「わかったよ。待てよ。オレ今から、オムライスのおにぎりを作るぞ?」


 卵がダブるんだが?


「お構いなく。オムライスと卵焼きは、別の卵料理ですわ」


 気にしないならいいか。


「メインは? タコウインナーだけじゃ味気ないぜ」


「お肉はウインナーで補給しますわ」


「となると、魚か。シャケでいいか?」


「シャケ! お願いしますわ!」


 じゃあ、おにぎりの具材にシャケは除外、と。


 メモを取って、さっそく調理を開始する。


「お金はこちらに。足りないとおっしゃるなら、今晩お泊めめくだされば、なんなりと」


「結構ですっ」


 仕出しを作る前に、オレが追い出されてしまう! 


「おじー。お弁当作ってー」


 プリティカ、お前もか!


「簡単なのでいいよー。一品でいいからー」


 案外、簡単な料理ってねえんだよなあ。


「さすがに、カレーはムリでしょー?」


「たしかに」


 カレーパンという手もあるが、オレにそんな技術はない。手作りパンって家庭でも手軽にできるが、店で食ったほうがうまい。カツサンドで使っているパンも、市販のものだ。パンを揚げる手間も考えると、オレにはムリかな。


「……いや、あれならいける」


「なにー?」


「ドライカレーだ」


 それなら、おにぎりを作ってやれるぞ。


「わーい」


「わたくしもわたくしも!」


 デボラまで、オレのドライカレーおにぎりを欲しがる。


「他の料理に、匂いがつくぞ」


「お構いなく!」


 コイツがいいって言ってるから、いいか。

 


「お前らさ、仕出しはいいのか?」


 仕出しに人気がなく、少し寂しいのだが。


「もちろん。どちらもいただきますわ! カツサンドですわよ!」


「食べるに決まってんじゃーん。カツサンドだよー」


 どんだけ食うんだよ、魔法学校の女子って!

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