第18話 ダンジョン攻略

 担任のシスター・ダグマの先導で、ダンジョンの前まで大型馬車で向かう。 


「今日は、レベル五相当のダンジョンに向かいまーす。初心者には厳し目で、モンスターは強めです。が、浅いので日帰りでいけるでしょう。そこにいる回復の精霊を見つけて、セルフィーしてきてねー」


 つまり隠れている精霊を見つけて、スマホで一緒に写真を取ってこいと。


「班ごとに別れて、許可をもらって写真を撮ってきてください。ただし一度撮影したら、その精霊は消えてしまいます」


 一体見つけて、それを各々の班で順番に写真撮影……とはいかないというわけか。また撮影は許可制で、勝手に撮ってもデータに残らないそうだ。ちゃんと相手と交渉する能力も、要求される。


「これは異文化交流と、レアアイテム採取に役立つ手段を養う訓練です。ダンジョンは簡単とはいえ、気を抜かないようにねー」


 シスター・ダグマが、生徒たちに言い聞かせている。


「デボラちゃん、今日はよろしくね」


「よろしくお願いします。プリティカさん」


 同じ班になったプリティカと、あいさつを交わす。


「デボラちゃんって、ジャージでもかわいいね」


 今日のデボラは、いつもの制服ではない。戦闘用の体操着だ。上はジャケット型のジャージで、ハーフパンツである。太ももに、ポーチをくくりつける、レンジャータイプの装備だ。


「このジャージのデザインが、いいだけですわ。わたくしなんて、別にかわいくなんか」


 正直言うと、ブルマー姿のプリティカが、一番目立っている。我が学年で、最も軽装だ。


「えーっ。でも普通じゃーん。露出は普段とあまり変わっていないんだよねー」


 胸の谷間から黒いブラがチラリと見えているのは、デフォルトなのか。


 プリティカはカバンに、弁当とおやつしか入れていないらしい。馬車の人に分けるために、やたらめったら持って来ている。そのおやつも、もはや半分に減っていた。


「あとはお昼ごはんだよね。それまでにパパッと終わらせようよ。ねえ、キャロリネちゃん」


「はい。ががが、がんばるぞ。プリティカ氏、デボラ氏」


 ややぽっちゃり気味の少女が、拳を固める。キャロリネは魔法拳士タイプで、前衛を担当する。モンスターとばかり戦っていたせいで、コミュ力が低い。外交的なプリティカと組んで、やりづらそうだ。


 イクタの弁当を持って、ダンジョンへ。


 デボラたちが向かうのは、森の遺跡だ。ダンジョンといっても、天井はない。


「こっから、登れそうじゃない?」


 試しに、プリティカがジャンプしてみた。


 ガツンという音とともに、伸ばした手が見えない障壁に阻まれる。


「あれ? 弾かれちゃうね」


 何度飛び跳ねても、結果は同じだった。


 ガラスではない。魔法で防がれたようだ。なんらかの演算が、働いているのか。天井が開いているからといえど、ズルしてショートカットはできないらしい。


「難しいねー」


「モモモ、モンスターだ!」


 キャロリネが、反応した。


「わお、ゴブリンだー。殺意高めだねー」


「わかるのか、プリティカ氏?」


「ウチの農園を手伝ってくれてる個体とは、違うねー」


 ゴブリンにも、色々種類がある。このダンジョンのゴブリンは、人を襲うタイプのようだ。


「なら、遠慮はいらんな! ファイアフィスト!」


 炎の魔法を、キャロリネが自分の拳にまとう。炎を付与した拳で、ゴブリンたちを次々と殴り倒す。


 さすがだ。戦い慣れている。


 こういった狭い場所で火球などを放つと、爆発の影響で酸素を失う。最悪ダンジョンが破壊され、ガレキが崩れて脱出できなくなる。


 なので、付与魔法で片付けるほうがいい。


 氷魔法を込めた剣を振り回して、デボラも参戦する。


「キキキ、キリがないぞ!」


「数が多すぎですわ!」


 女子高生が相手だからか、やたらと数が増えだす。その勢いは、留まるところを知らない。


「ギャギャ! ギャル、ダ!」


「ギャギャツ! アクシュ、シテ! シテクレタラ、テヲアラワナイ!」


「カミノケ、クレギャ!」


 殺害や凌辱目的ではなく、自分の性癖を満たすのが目的のようだが……。プリティカしか、狙っていないし。


「デバフって、苦手なんだよねー。でも、トレーニングトレーニング、っと」


 おもむろに、プリティカが衣服をずり下げる。下着が見えるギリギリまで。


 プリティカのヘソの下にある淫紋? のような模様が、怪しく光りだす。


「いくよー。ファイナルヌード」


 プリティカが魅了魔法で、「裸になった自分の幻影」を作り出したのだ。


「一人だけー、一緒に入れるよー」


 相手には、入浴中のプリティカが視界に映っていることだろう。


「あたいにも見えるよ。バスタブで泡まみれになっているプリティカ氏が」


「どうしてあなたが、魅了されていますの!?」


 魔物にしか効果がないはずなのに、キャロリネが魔法をモロに食らっている。


「あたいはオーク族の血を、引き継いでいるからな」


 感性がモンスターに近いのか、キャロリネまでもがプリティカに魅了されている。


「オフロ! ギャルト、フロ! オレトハイレギャ!」


「イヤギャ! ハイルノハ、ボクトダ!」


 ゴブリンが、女子高生をそっちのけでケンカをはじめた。


 一緒に風呂に入れと誘惑して、プリティカは相手の同士討ちを誘ったのである。


「恐ろしい。これが、戦わずして勝つ方法か」


 肉弾戦しかしてこなかったのだろう。プリティカの戦闘法を、キャロリネは呆然と見ている。


「まさに、コミュ力オバケ。王者の風格ですわ」


 結局それ以上デボラたちが手を下すまでもなく、ゴブリンたちが自滅した。


「しけてんねー。おやつ代にもならないよー」


 プリティカが、ドロップアイテムを回収していく。服を直しながら、何事もなかったかのように。


「この先に、セーフルームがあるよー」


 セーフルームで休憩となった。ちょうど、昼休みの時刻である。


 キャロリネが、アイテムボックスを開く。


「あーっ!」


 この世の終わりのような声を、キャロリネが発した。


「どうしたの、キャロリネちゃん?」


「弁当がない! アイテムボックスに入っていたはずなのに!」

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