第101話

 週末、リディはリュカに皇宮に招待され、皇宮の中にある温室にやってきていた。


「お招きいただき、ありがとうございます。リュカ殿下」

「待ってたよ、リディ」


 皇宮なので、最初だけはリュカには普段使わない口調で口を開くと、リュカは笑みを浮かべる。


「いつもと違ったドレスで可愛いよ、リディ」

「ありがと! 皇宮のお茶会だもの。いつもより格式張ったものにしてみたの」


 パーティーよりは派手さがなく、街に行くよりは少し豪華なドレスにしてみたのだ。リュカのエスコートを受けながら、温室の中へ入っていく。


「わぁ! 素敵な温室ね」

「そうだね。お茶会でよく使われる部屋らしい。噴水もあるよ。ほら、あそこ」

「噴水が豪華! さすが皇宮だわ」


 噴水の前には、四人席ほどのテーブルに二人分のお茶セットが用意されている。リュカのエスコートで椅子に座ったリディは、リュカが席に座るのを確認する。すると、皇宮の使用人がやってきて、テーブルの傍にワゴンを持ってくると礼をした。


「色んな種類のケーキを用意してもらったんだ。好きなだけ食べていいよ」

「ありがとう。じゃあ、苺タルトとレアチーズケーキをお願いします」


 せっかくの皇宮なのに、リディはすでにその辺のカフェにいるような気分だった。使用人がケーキサーバーを使用しながら、リディの前にケーキを用意してくれる。リュカもチョコのケーキを頼み、早速お茶会を開始した。


「最近、生徒会って、やっと落ち着いてきたのでしょう。ずっとリュカは忙しくて、大変だったね」

「そうだね。でも、もう慣れたよ。学園と家でもやることは多いけど、昔からのことだから、忙しいのが普通かもしれない」

「でも、リュカ、時々は休みを入れないと、疲れちゃうよ」

「リディが、こうやって話を聞いてくれるだけで、すごく息抜きになるから。これからも、一緒にお茶をしてほしいな」

「うん」


 あれ、でも、皇宮だから、レオはリュカとお茶してもいいって言ったのかな? 皇宮以外だと駄目だったら、リュカとお茶をすることができなくなってしまう。


 そんなことを考えながらも、リュカと話が弾む。学園のことや、魔法のこと、魔獣討伐のこと、それから他愛もない話をしていると、温室の中に人が入ってきた。ベルリエ公爵である。


 ベルリエ公爵が近衛騎士を一人連れて、リュカの斜め後ろに立つとリディを見た。内心疑問に思いながらも、リディは席を立ち挨拶をする。


「はじめてお目にかかります、ベルリエ公爵閣下。ラヴァルディ公爵が息女リディでございます」

「座ってくれて構わない。ラヴァルディ公爵令嬢、リュカに話は聞いている。リュカと仲良くしてくれているとか」


 リディは席に着くと、口を開いた。


「はい。ベルリエ公爵子息とは、仲良くさせていただいています」

「そうか。……悪いが、同席させてもらえるだろうか」


 リディは困惑しながらリュカを見たが、リュカも困った顔をしながら口を開く。


「ごめん、少しだけ、父上の同席をいいかな?」

「……構いません」


 どういうことだろう。もしかして、ベルリエ公爵も来ることになっていたのだろうか。


 ベルリエ公爵が空いた席に座り、口を開いた。


「時間を取らせて悪いね。公爵令嬢に聞きたいことがあってね」

「質問……ですか?」


 ベルリエ公爵は頷き、直球な質問をしてきた。


「公爵令嬢が我がベルリエの血筋でもある、という噂があっただろう。本当のところ、どうなのだろうか」


 ドキッとしたリディだが、顔には出さないように努めながら、苦笑した。


「ありえません。勘違いな噂が独り歩きした誤解です。私もそれを聞いたときは困惑しましたが、いつもとは違った内容の噂に飢えた社交界の笑い話に過ぎません」

「ほう。では、私が調べた内容とは、違うということだな」

「……閣下が調べた内容ですか?」

「私には、連絡の取れない従兄妹がいる。リリアナというが、帝都近郊の街で夫と子と住んでいたらしい。残念ながらリリアナと夫は亡くなったようだが、子は生きているはずなのだ」

「……」


 リディの服の中に冷や汗が流れる。


「そうそう、リリアナの夫は黒い髪だったらしい。公爵令嬢のように」

「……まあ、偶然ですね。ただ、帝国に黒い髪は少ないとは言え、ラヴァルディ以外にもいます」

「確かにな。そういえば、ラヴァルディ公爵家にも、我が従兄妹リリアナのように、失踪した人物がいたな。ラヴァルディ公爵の兄、確か名はセザールだったと思うが」

「……」

「リリアナはセザール・ラヴァルディとは同じ年齢だ。学園に通っていた頃、仲がいいなどという話は聞いたことはないが、失踪したのは同じくらいの時期だ。これは偶然か?」


 リディはテーブルの下でスカートをぎゅっと握った。


「……お父様から、セザール伯父様の話は聞いたことがあります。突然いなくなったと聞いておりますが、その後の行方は分かりません」

「……公爵令嬢はラヴァルディ公爵の十六歳の時の子と聞いた。しかし、リリアナとセザールの子だと言った方が、年齢的にも納得いくのではないか?」

「閣下の中で、リリアナ・ベルリエ公爵令嬢とセザール伯父様が結婚されていると確定されていますが、そういう話は聞いたことがありません。私には分かりかねます」


 リディはそう言って立ち上がった。


「これ以上、世迷言を聞いてはいられません。失礼します」

「待ちなさい。世迷言と片付けるあたり、内心焦っているのだろう。本当のことを聞かせられれば、そうなるのも仕方あるまい」

「違います!」


 ベルリエ公爵はニヤっと笑った。

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