性別なんて捨てちまえ

晶の華

性別なんて捨てちまえ

「チャンスは残り三回です」どこか楽しげに声は告げた。

予めスタート地点に置かれたロボットの声が楽しげに聞こえたのは、僕自身が高揚しているからかもしれない。


ー異性交遊委員会(IKI)

今や知らない人は、いないだろう。

何年か前に、設立された委員会。世間は、物事に名前をつけて、区別するのが好きだというのは、前からだが、男と女、リア充と非リアという区別は、とても大きな壁として存在し続けるようになった。


それからは、性別で競争が起きるようになった。差別も起こるようになった。そして、何より男性の恋を求める、求愛心が凄まじいものに変化した。


女を見つければナンパする不良が増えたり、性別の壁をなくそうとする反性別差別団体が増えたりした。そのせいで、男性の方が活躍する場面が増え、社会で活躍する女性は重宝されるようになった。差別というか、性別で住む世界が変わってしまった。



IKIは、そんな社会で男性が女性のパートナーを見つけるのを手伝う組織だ。


もちろんそれは、全然簡単ではない。テストがあり、それで合格できるのは1億人に1人という確率らしい。そのテストを受けられるのも、学歴が良くて、面接に受かった人しか受けられないらしい。


なぜそんなテストに頼らなければならないのか。それは、女側の警戒心がとても高くなったからだ。男性の求愛心の上昇は、社会問題になっている。地域の風紀を乱すうえ、女側の被害数は少なくない。だから、女側は警戒心が高く、男性と会おうだなんて思っている人は少ない。でも、パートナーがいると社会的な地位は上がるため、女がテストに参加してくれているらしい。



このテストの復習をしたせいで、さっきまでの高揚が一気に引いてしまった気がする。

冷えた心を抱えながら、僕は門をくぐった。


一回30分。女と会い、口説く。それで、相手が承諾してくれたら合格。


でも、こんなの無理ゲーだ。広いフィールドに放たれるうえ、そこら中、女の匂いがちりばめられていて、鼻が効かない。(男性は、女の匂いに対して敏感に作られている。女の匂いというのは、男性の疲労回復や脳の活発化によく効く。)


なのに、30分で合格するなんて無理に決まっているのだ。所詮、IKIは協力する姿勢を見せつつ合格させる気はないのだ。IKIは、何が目的か分からない。

甘い匂いに囲まれながら、身体を動かす。ここ、さっきも来たような、、、




「チャンスは残り2回です」今度は、冷淡な声に聞こえた。


このテストが終わったら、僕はどうなるのだろう。知り合いに、テストを受けた人がいないため分からない。が、テレビで聞く限り、テストを受けた人の大半は、行方知れずになっているらしい。どこで、何をやっているのだろう。生きているのだろうか、、、



「チャンスは残り1回です」


かろうじて音は聞こえたが、脳にモザイクがかかっているようだった。なんだろう、この気持ちは。1時間しか歩いていないはずの身体が、大変重く気だるい。


なんで、こんな所にいるんだろう、、、


テストなんて、やらなきゃよかった、、、



気づいたら、知らない天井を見ていた。

脳にモザイクがかかっている感覚はなく、身体ももう重くないことを確認しながら、起き上がった。


見たことがある形が横にあった。あの声が脳にまた響くのだろうと思ったら、若干違う声がロボットから発された。


「身体の調子は、いかがですか。」


人間らしい声だった。


「いきなり、脳や身体を上手く動けないようにしていまいすいませんでした。」


その言葉を聞いて、はっとした。あれは、図られたものだったのか、、、!?


「私は、異性交遊委員会本部会長 海鈴と言います。テストを受けてくださり、ありがとうございます。今後の参考にしていきたいと思います。」


今後の参考ってなんだ?それに、なんで僕は、異性交遊委員会本部会長なんかと話しているんだ?


「あ、テスト受験者には、毎回説明をするようにしているんですよ。なので、もう少し時間をくれませんか。」


優しい声に、気が付いたら首を縦に振っていた。


「私たち異性交遊委員会は、リア充になりたいという欲望が生んだ委員会だと思われていますが、それは委員会が設立された当初の話です。今は、恋愛が全てではないという思いを伝えるべく活動しています。なので、テストはパートナーを見つけるためではなく、入社テストです。」


「じゃあ、テストが受けられる人が少ないのは、より良い人材を得るため、、、?」


「はい。なるべく早く、世の中を元に戻すためより良い人材を得る方法としてテストを行っています。」


なんなんだそれは。


画面と声が重なったことに気づいた。そこで、読み込み画面になった。黒いディスプレイに映る自分の顔は、美しい。美の象徴と言える輪郭。大きく見開いたレンズ。手入れされた光輝く肌。


「僕には、恋愛は必要ないよね。だって、僕の隣にいる人は僕が綺麗すぎて気後れしてしまうからね。世界の全てが、僕の引き立て役さ。」


ハハハと言う笑い声が、狭い部屋に響く。



つまり、美には性別は関係ないってことサッ。



――あとがき――


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