銀河星の狩人

齋藤務

第一話 狩人の少女

暗い夜空の向こう、遠い遠い遥かに遠い、星と星とが幾重にも重なり合う星の世界、

そこで、漆黒のカーテンが揺れる星ぼしの宝石の中、星屑が流れる星の川、小さな空の舟は青い星雲を目指す。

星の舟には美しい髪をした一人のあどけない顔をした狩人が立つ、

その大きな瞳には、星屑の流れる先に有る大きな星雲が広がっていた。

狩人は赤くさした唇を引き締め、細い眉を顰める。

目指す星雲を前にして、星の舟の縁に立つ狩人、だが姿は、まだ少女の狩人だった。

手に持つ銀の弓矢は、伝説のオリハルコンの鏃、妖獣ぺがさすをも射殺すと言う、腰に提げた剣は、星雲の大亀の甲羅を切り裂く大剣ライジン、

一振りで硬い牙も両断出来る、然し、小さな少女の狩人は、未だに大きな獲物に出会えない。

多くの狩人から認められる、星の狩人と為るには、星雲に住むと言う星の大竜の首を狩る事だった。

星屑の流れに乗り、目指す星雲には、幻の大竜が住むと聞く、

そして、少女の狩人が狙う獲物は、青き大竜、一筋縄では狩れない厄介な獲物だった。

竜たちは怪しげな術を使うと言うからだ、。百日、星雲で大竜の出現を待ち、百日、大竜が好む歌を歌った。

少女の狩人が歌う、愛の歌は、星雲に波紋を作り広がっている、少女の狩人は星屑を手に掬い、光のせせらぎを見詰めた。

星雲の揺らめきが少女の瞳に映り込む、少女の狩人が、大剣の柄を握り締める。

「来る、大竜が来る!」

少女は歌を歌う、美しい歌声に誘われて、大竜の影が星雲の光の中を横切った。

少女の狩人の乗る星屑の船の前に、星雲の光の星屑を押し退けて、大竜が姿を現す、赤く鋭い目で、目の前の少女の狩人を睨み付ける、剣を構えた少女と、目と目が合った瞬間だった。

少女の抜き放った大剣の刃が、大竜の眉間に突き刺さる。

然し、大竜の鋭い爪が少女の狩人の小舟を引き裂いた。

星雲の中に少女の狩人が投げ出される。

直ぐに舟の破片にしがみ付き、少女が大竜を探す。

だがもう姿は無い、確かに手応えは有ったのだが、大竜と共に、少女の狩人は大剣を失って仕舞った。

少女は星空を見上げる、きらきらと美しく輝いている。

悔しさは無かった、あれ程の大竜だ、見事なまでに青く輝く宝石のような鱗を身に纏った。

美しい大竜だった、大剣の一振りなど惜しくはない、少女の狩人は微笑みを浮かべて、腹の底から笑った。

今は清々しい気分だった、幾千日掛けても出会えない大物だ。

その大竜に、少女の狩人は一太刀突き入れる事が出来た。

自分は運がいいと感じた、大竜は、その気になれば星雲を焼き払う事も出来る、幸運にも自分が何とか生きているのだからだ、。少女の狩人は、星屑の舟の破片に捉まり歌を歌った。

悲しい悲恋の歌を歌う、大竜が好む歌ではないが、少女の狩人が獲物を逃した時に歌う、何時も歌う歌だった。

星屑の破片に摑まり転寝をする少女の狩人、その少女の狩人の腕を誰かが掴んだ、

振り向く少女、白い星の小舟に乗った若い青年が、少女の狩人を助けようと手を差し伸べたのだ。

小舟に引き上げられて、少女の狩人が、若い青年を見ると、青年は額に大きな傷を負っていた。

その青年の話では、大竜が青年に向かって来ると、鋭い爪で青年の額を切り裂いたと言う、青年は大竜の額に刺さっていた少女の狩人の大剣を引き抜き、大竜を追い払ったと話した。

少女の狩人の手に、大剣が戻される、少女は青年を見詰めた、生々しい額の傷、然し、その瞳は青く星の海を映している。

少女の狩人は、昔、亡き父から聞いた、大竜が人に化けて人を惑わす話を思い出す、

然し、少女の狩人は手に持った大剣で、目の前の青年を殺す事は出来なかった。

少女の狩人は剣を翳し青年に言う、

「人を惑わす術は見破っている、だが、お前を殺さない、どこへでも消え失せろ!」

と、青年は笑みを浮かべ大笑いをした。

その目は赤く光り、体からどす黒い煙と炎が吹き上がる。

大竜の青年は、少女の狩人に言った。

「それを言える立場か考えろ!」

と、少女の狩人の背後に、大竜の青い尾が少女の狩人の体を突き刺そうと硬い尾の剣を向けている。

少女の狩人は、怯まず不敵に言う、

「お前の額の傷は深い、放って置けば傷が腐り頭の中まで入り込む、お前は死ぬんだ、だからお前との勝負は私の勝ちだ」

大竜が言う、

「俺が死ぬならばお前を殺して死ぬ、相打ちだ!」

少女の狩人が、

「そうだ、だが私は、お前の額の傷を直せる、これがどういう事か考えろ!」

大竜は黙り込む、そして、

「お前が額の傷を治せたなら、俺はお前を殺すのは止めよう、それならば、お前は俺の傷を治すか?」

少女の狩人は、

「治そう、私に額を見せろ!」

大竜は、少女の狩人に額を見せた、青い鱗が切り裂かれて真っ赤な肉が露わに見える。

少女の狩人は、腰の袋から一角獣の血で作った薬を、大竜の額に塗り付けた。


「どうだ、薬は塗ったから、化膿はしないだろう、これでお前がその気に為れば、私を殺せるが?」

「いや、俺は、約束は守る」

「そうか、済まないな、綺麗な青い鱗に傷を付けて仕舞った」

「お前たち大竜は、皆一匹で暮らしているそうだが?」

「そうだ、俺は、ずっと一人だ」

「お前は、竜の首を狩って星の狩人に為りたいのか?」

「ああ、父と同じに星の狩人に為りたいんだ」

「俺の兄弟たちは殆ど死んだ、もう俺しか残っていない」

「私の父は、見事な真っ赤な大竜を狩って、星の狩人に為った」

「見事な赤い竜、俺の母親かも知れない?」

「父から貰った、赤い竜の鱗が有る、これだ」

「見事な赤い鱗で宝石みたいだろ」

「間違いない、独特の鱗の形だ、俺の母の鱗だ」

「なら、私は親の仇の娘と言う事に為るな、ここで仇を討つか?」

「いや、約束だ、殺しはしない」

「済まないな、私の父が、お前の母親の首を狩って仕舞った、見惚れる程見事な赤い鱗の竜だと父が何時も自慢していた」

「もういい、古い事だ」


「あつ、そうだ、私が持っているのは、傷を治すユニコーンの血の薬だけでは無い、傷を消し去るペガサスの血の薬も持っている、試しにどこか古傷でいいから出して見ろ」

「この薬は、素手じゃ触れない、指だけきれいに為っちゃうから」

「お前は、俺の首を狩れなかったから、星の狩人には為れないな」

「ああ、でも、星の狩人に為るには、まだ手は有る、邪竜の首を狩ればいい」

「邪竜の首を狩る、あれはもっと厄介な竜だぞ、問答無用、知性が無い凶暴な竜だ」

「いや、知性は、大竜寄り高いと聞いた、自分の命を懸けて、父と賭けをして敗れた、父は、無抵抗の邪竜を狩るのが少し辛かったと言っていた」

「父が言っていたが、竜たちは、何かに強く執着していると聞いた」

「私は、亡き父から聞いたが、大竜は、特に初めて見たものへの強い執着を表すと聞く」

「女性を愛した竜の話を聞いた、父に言わせれば、多分、その竜は、卵で初めて見た女性に執着したんだろうと言っていた」

「ああ、その話は知っている」

「お前は、最初に何を見た?」

「竜たちは、嘘が苦手で、問われれば、どんな質問でも答えると聞いた」

「俺は、自分だ」

「ああ、そうか、それは可愛かっただろうな、ちっこくって目がぐりぐりしてて、愛らしい」

「見たかったな、お前の小さな頃の姿を、フフフフ」

「見たいか?」

「ああ、見たい!」

「見せてやる!」

そう大竜が言うと、水晶の玉を少女に渡した、そこに映し出された姿に、

「ああーつ、本当に可愛らしいな、青くって小さい牙と、小さい爪、小さな羽が生えている、愛くるしい姿だ!」

「私は、小さい頃、父に、竜の子供をせがんだ事が有った」

「それで、父は、私に、竜と愛し合って仕舞った女性の話をしてくれた」

「自分の竜を殺されて、女性も死んだと聞いた」

青き大竜が言う、

「俺は、人間に自分の命を捧げて死んだと聞いている」

少女が言う、

「女性は、死んだ竜の亡骸の前で命を絶ったと、父から聞いた」

どうも、二人の話は微妙に違っていた、

「お前たち竜は、一匹で暮らしていて、知識とかどうやって付けているんだ」

「頭の中のテレパシーだ、それを通して知識を得ている、俺の知識は、黒龍と白竜だ、彼らの知識は膨大だ、」

「そうか、私も父から、似たような話を聞いている、竜たちは、突然に集まり、一糸乱れぬ行動を取る、話し合う事も無く、初めて出会った竜達が、共同で攻撃してきたそうだ、」

「ああ、らぐたす星雲門戦闘か、あの星雲の門は、俺たち竜たちには邪魔な門だった、星雲の行き来が難しく為るからな、」

「黒龍が決めて、白竜が指揮を執った、」

「そうだったのか、あれで、星雲軍は壊滅した、それだからだろう、星雲世界全体で、星の狩人が英雄扱いされるのは、」

「そうらしいな、」。

「しかし可愛いな、お前の小さい時の姿は、これは堪らない、」

鏡の球を抱きかかえた少女の狩人を見る青き大竜、

「小さい時に、こんなのを抱いて眠りたかった、」

「夢だったんだ、可愛い竜と一緒に暮らす、そいつに、投げた棒を取ってこらせたり、お手とかお回り、ちんちんも覚えさせたかったな、」

「・・・」

「本当に可愛いな、」

「そんなに可愛いのか、」

「ああ、可愛い、、だが、」

「だが、何だ、」

「だが、今のお前の姿も美しい、どうなんだ、自分もすきなんだろう、この小さな可愛らしい竜が、牙が太く伸び、爪が鋭く伸びて、勇ましく精悍な姿に成長した、立派な青き大竜だ、胸が熱く為るような感動する姿だな、」

「そうだ、」

「青いさふぁいやの宝石のような、鱗が美しい、この世の中で、これ程の美しい青き竜は他には居ない、」

大竜は目から涙を零した、

「おっと、竜の涙は、貴重なんだ、惚れ薬に為るからな、これは貰うぞ、」

少女の狩人は、大竜の流す涙を瓶に注ぎ入れる、瓶が直ぐに一杯に為る、すると、

「お、おい、勿体ない、もう泣くな、」

少女の狩人は、大竜の頬を撫でる、

「ところで、お前たち竜の好物はなんだ、何を好んで食べている?」

「好物?好物は、うじだ!」

「うじか、この辺じゃあ、もう居ないだろう?」

「ああ、居ない」

「私は、沢山いるところを知っている」

「どこだ?」

「三つ有るブラックホールの裏手の星雲だ、あそこは、うじが多すぎてみんな近寄らない、あそこなら、三千年位は竜たちの楽園に為るな」

「そうか」

「本当らしいな、うじがうじゃうじゃいるようだ」

「んん?どうして分かるんだ」

「テレパシーで俺たちの話を聞いていた、銀竜が食べに行って、もう食べている」

「は、早いな、聞いたばかりで」

「ああ、あいつは我慢出来なくて、テレポートしたんだ」

「凄いな、そんな事も出来るのか、」

「ああ、必要に迫られればだが、」

「もうお前たちを狩れないな、お前との話を、他の竜たちに全部聞かれていて、私の事もばれて仕舞っているからな、」

「ああ」

「じゃあ、やっぱり邪竜しか狩れないのか?」

「そうなる」

「そうか、仕方がないな」

「取り敢えず、私を、この儘、星の港まで送って呉れないか?」

「ああ、いいだろう」




2024年9月23日 

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