体育祭に燃える陽キャに巻き込まれ

「ねえねえ、如月くん。他の種目なんにするぅ?」

「如月〜! 俺と一緒にバスケやんね?」

「えー! 俺と一緒にサッカーしよーぜー」


 またしても一段階馴れ馴れしくなった奴らが残りの一種目をかけて声をかけてくる。


 それぞれ自分が所属している部活と同じ種目だな。得意分野だから当然っちゃ当然だが、俺を戦力にくわえることで功績をあげて目立ちたいって欲をムラムラと感じる。


 女子に至ってはまた違って、ちょっと興味が出た。そんなレベルだと思う。


 だから俺はメガネを光らせてキッパリと告げた。


「俺、二人三脚にします!」


 やる気満々で告げた俺に、なんでだよ!! と全員が突っ込んだのは言うまでもない。


 どうもおかしい。俺の意図した方向に進んでいない。

 そんな思いをひしひしと感じるのは気のせいではないだろう。


 クラスメイトとは一定の距離をキープしていたかったのに、ストーカー事件や菊地の件があって目を引いてしまい、なにやらみんな急に親しげになってきた。


 いままでは棒読みの「おはよー」が「おっは!」または「如月くん、おっはよ!」というように微妙にテンションが変化しているし、なんなら肩を叩かれたり、ふざけ混じりに軽くタックルされることもある。


 授業中でもこっそり話しかけられることが増えてきたが、そこはまだ見た目トリックが生きているようで「勉強教えて~」という内容がほとんど。


 これ以上、距離感を詰められないためにも俺だってキリッとした顔で、おまえらとは格が違うってことを教えてやりたかったさ。


 だがな、残念なことに見た目を変えても頭の出来は変わらない。見た目に反して頭の出来が他の奴らと同レベルなんだとバレるまで、それほど時間を要さなかった。じつに残念だ。


 自分たちと同等というのは更に仲間意識を加速させる。クラスメイトと話す機会が格段に増えてしまい、ボロが出ないように気を使う日々が訪れた。


 そんななか、体育祭に向けて準備が始まる。


 イベントに闘志を燃やす陽キャ共はこういったところに余念がない。


 男たちは自分の株を上げる絶好のチャンスなので、暇を見つけては練習に繰り出す。同時に各クラスごとの色を出すため、応援旗やTシャツの製作などもやらなければならない。女子は主にそっちに力を入れているようだった。


 だが一番の話題は。


「最後のダンス、誰誘う〜??」


 これだ。


 どうやら体育祭の後にダンスパーティーというお祭り騒ぎがあるらしい。先生方も全員参加でノリノリの曲に乗って踊り狂うという、いかにもこの学園らしい締め括りが待っている。


 聞けばこの学園は年間を通してイベント尽くしだった。その中には学園ベストカップル抔だの、バレンタイン祭なんてものまである。


 なにすんの、これ。不穏なイメージしか湧いてこない。


 だけどそれがこの学園の特色であり、人気を博している理由のひとつだ。だからこそ陰キャが陰キャとして生きてくるのだが。


 それはそうと、二人三脚の相手なのだが。なぜか菊地が立候補してきた。学年一位と二位の最強タッグで二人三脚を暴走しようぜ! ということで。


 もちろん頭じゃねーぞ。足の速さだ。


 興味の欠片もなかったもんで、まったく知らなかったが、俺が足の速さをバラすまで菊地が学年首位だったらしい。


 俺らが組めば二人三脚も地味にならねーだろ! と妙にテンション高めな菊地に、俺は盛大なため息をもらした。


 俺は地味にいきたいから二人三脚を選んだのだ。なぜ目立たなければならない。


 そこにはやはり菊地の思惑が潜んでいて、普段なら脚光を浴びない種目で華々しく目立てば、より一層注目を浴びるのでは、ということらしい。俺の噂に便乗しての、菊地らしい考え方だ。


 それで昼休憩は毎度菊地に連れ出され、練習に励むようになった。汚名返上とばかりにやる気に燃える菊地がガチで走るものだから、足を引っ張るわけにもいかず。致し方なく速さを合わせた結果、怒涛の爆速コンビが出来上がった。


 肩を組んで物凄い速さでグランドを駆ける俺と菊地をみんな目を点にしてみてる。二人三脚ってこんなに速く走るもんじゃねーだろ。


 おまえらどこ目指してんの? って速さだ。


 ※


 その様子を浅見は教室の窓から眺める。彰くんの武勇伝を心ゆくまで語り尽くしたのはいいけれど、不覚にも人気が出てしまった。


 いままでC組の陽平くんを除いて、彰くんと一番親しい仲にあるのは自分だと思っていた。それがひっそりとした喜びだったのだ。彼の魅力を自分だけが知っているという特別感。


 それなのに、いままで他人と距離を置いていた彰くんが他の生徒と仲良くなり「練習があるので」と昼の部活にもあまり顔を出さくなった。


 カーテンの隙間から運動している彼の姿を見るのは楽しいけれど、少し寂しい。そして。


「菊地! そんなに彰くんとくっつかないでよ! 羨ましいいい〜」


 レースのハンカチを噛んで、キーッと唸る浅見は同性である菊地にさえ嫉妬するのだった。


「ダンスパーティーだわ。あそこでグッと距離を縮めるのよ!!」


 教師である以上、種目に参加することはできない。でも、ダンスパーティーはべつだ。無礼講とばかりに教師と生徒の触れ合いが認められるイベントであり、先生方もみな楽しみにしている。


 浅見は瞳に闘志を宿す。

 絶対に他の女子と踊らせてたまるもんですか。


 毎年のこと、ラストソングは必ず雰囲気のあるバラードだと決まっている。そこで告白し、カップル成立を狙う生徒も少なくない。


 去年参加した時は「踊れないから」と片っ端から断りを入れ、壁の花となっていたけれど。今年はそういう訳にいかない。自分にではなく、彰くんに魔の手が迫る恐れがある。


 完璧なダンスを披露して彰くんの気持ちを引き、パートナーの権利をもぎ取らなくては!


 浅見は職員室に駆け込むとPCを開き、メラメラと燃える瞳でダンススクールの参加を申し込んだ。

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