女嫌いの俺、生まれて初めて女の後を追う

「ケーサツ何してんの? あそこにいまっせ」


 慌てて近くに巡回している警察がいないか見渡してみたんだが、残念なことに見当たらない。しゃーないので、とりあえずスマホで動画撮影。写真にも証拠を収め、ストーカーが来ていると交番に電話を入れる。


 昨日相談したばかりだったから、巡査もすぐに分かったと返事をしてくれた。


 それからしばらくして巡査が到着。写真を手渡していたので、見比べてすぐに気付いたようだ。声をかけられたストーカーは暫く巡査と話していたけど、すぐにその場を去って行った。巡査もそれ以上、追うことはしない。


 くっそ。話には聞いていたが、いざ目の当たりにするともどかしいな。


 ストーカーについては、繰り返しの犯行が認められないと法的処置は行えないんだそうだ。そのように事前説明を受けていたから、仕方ねーなと諦めるしかない。


 繰り返しって何回まですれば認められるんだ? って話だが。


 しっかし、あのストーカーもなかなか肝が据わってるな。こんなにすぐ姿を見せるとは。こりゃ陽平の言ってた通り見張ってて正解だったな。


 そして二十時。先生がビルから出てきた。警察の圧が多少なりとも効いたのか、近くにストーカーの姿はない。けど自宅がバレてるからな。姿を現した以上、どこに潜んでいるか分かったもんじゃない。


 少し遅れて店を出た俺は関係ないひとのフリをして先生を追いかけはじめた。


 これじゃ俺のほうがストーカーみてーじゃん。


 何が悲しくて浅見先生のあとを付けなきゃならんのだ。いいや、俺は俺自身の安泰のために頑張る。それだけだ。


 金木町に到着し、アパートに到着する間もストーカーは現れなかった。ホッと肩の力を抜いたところで携帯が鳴る。チャットを開くと先生からだった。


『いま帰りました。今日は何もなかったわ』


 いや、あったけどな。そう突っ込みたかったが、お疲れ様。とだけ返す。


 そして二日後。


「おいー!!」


 俺はまたしても珈琲を片手に、人目も憚らず大声を出すことになった。


 今日もあいつ来てるじゃん! どんだけだよ!! いつまでこんなこと繰り返してればいーわけ!? 


 苛々しながらまた交番に電話をかけて巡査が現れるのを待つ。走ってきた巡査とストーカーの姿を眺めることしばし。ストーカーはペコペコと頭を下げて去って行った。


 なんて言い訳してるのか知らねーが、見逃してるところをみると上手く逃げてるな。


 ちくしょう。なんとか手っ取り早くあいつ捕まえる方法はねーのか!?


 俺は一気に珈琲を飲み干すと、スマホでストーカー逮捕の記事を検索し、何件かピックアップする。


 おおかたの記事が被害者を殺害したあとの逮捕記録。いや、死んでからじゃおせーんだよ。他になんかねーのか!


 眉間にシワを寄せて画面をスライドしていき、ふと一つの記事に目を留めた。


「暴行罪ねえ……」


 先生に暴行が及んだ場合は一発逮捕だ。やり口は様々で家に連れ込む、または侵入したあとの犯行がメイン。動機は独占欲と嫉妬によるもの。


 浅見先生とあいつに接点はないから、可能性があるとすれば侵入されるほう。

 しかし黙って待つわけにもいかねーし、リスクが高すぎる。と、なるとだ。


 俺はニヤリと笑って席を立ち上がった。


 土曜日は日中のスクールだから大丈夫って言ってたけど、みに来てみたらやっぱりあいつがいた。


 今回は巡査も簡単には引かなかったらしい。いつもより長くストーカーを引き止めてたし、駅前を指差していたから多分交番に出向くように言ってるんだろう。


 このままいけば勾留されるか? と期待に目を輝かせてやりとりを眺めていたところで、男は突然巡査の手を振り切って逃げ出した。


「マジかよ、あいつ……」


 俺はコーヒーショップの窓際で慌てて追いかける巡査とストーカーの逃亡劇を呆然と眺める。捕まえてくれるといーが。


 後日、浅見先生に警察から連絡が入った。男を取り逃したので更に注意して下さいという注意喚起と、今度見つけたら必ず確保し、法的手続きに移行するとのこと。


 やっとここまで来たかと安堵したが、週明けの月曜日。ストーカーはビルの前に姿を見せなかった。


 だけど俺には確信があった。絶対近くにいる。必ずだ。


 ここまで気持ち悪い経験はさすがにないものの、俺だって似たようなことをされたことは山ほどある。あいつらは絶対に諦めない。ちょっとやそっと注意を受けて諦めるような、そんな生半可な生き物ではないんだ。


 俺は早めにショップを出ると堂々とビルの前に姿を現した。


 周囲が騒ぎ始めるが気に留めない。ベンチに腰掛けて待っていると、何人かに声をかけられた。大抵は「彼女いるんで」と断れば撃退できる。


 そして夜になり、浅見先生がビルから現れた。

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