浅見百面相

【浅見、心のメモ】

 

 如月彰、十六歳。


 ・女性が苦手。

 ・健康志向で冷食が苦手。

 ・オシャレには無頓着そう。

 ・コミュ障でもないのに他者交流は消極的。

 ・時々豹変したように言葉遣いや性格が変わる。

 ・俺様気質を秘める。

 ・神がかったイケメン。

 ・高身長の上にスタイルもいい。

 ・メガネは顔を隠すためのアイテム。

 ・一番の仲良しはC組の陽平くん。


 今まで集めた情報はこれくらい。


 なかでも気になるのが陽平くんとの関係だ。

 一見して真逆の性格なのに、なぜあれほど馬が合うのかしら。

 

 暇さえあればピタリと壁に張り付いてふたりのやり取りをみていたけれど、彼に向ける笑顔は本物だ。そして頻度も高い。ヨダレがでるほど羨ましい。


 もしかして同性ゆえの強みかもしれない。だけど浅見にだって強みはある。


 いくら女性が苦手といっても自他共に認めるこの豊満なボディでじりじり迫れば、「玲香っ!」と鼻息荒く飛びついてくれるはず。こちらはいつでも準備万端。それなのに、とても残念なことに空振りばかりが続いている。


 彰くんに色気が通じないのではこの体も意味がない。


 次の一手をどう出るか。


 思い悩んでいたところに彰くんが颯爽と現れた時は、おもわず飛びついてしまおうかと思った。


 だって料理教室よ。自分に会いに来てくれたのよ。もしかしたらお色気作戦がじわじわ効いていたのかもしれない。歓喜のあまり頭がおかしくなりそうだった。


 彰くんは訊ねたいことがあったんですって。その内容は「なぜ料理教室に通おうと思ったのか」。


 つい「あなたと過ごす未来のためよ」と言ってしまいそうだったのを、かろうじて飲みこみ「自分のため」と答えた。だって意味合い的には同じだもの。


 あなたと、わたしのため。そう言いだすには少し照れくさい。


 だけど彰くんはすごく喜んでいたようにみえたから、浅見はこの答えが正解だったと心でサムズアップした。


 もう少し一緒にいたくて、適当な理由をつけて送ってもらったのだけれど、まさかあそこでまた素顔がみれるとは。


 暗くてもハッキリとわかるイケメンっぷり。


 急にメガネを外すものだから顔は熱くなるし、心臓は何度も小爆発を繰り返して息をするのもしんどかった。


 あまりの息苦しさに言葉は途切れ途切れになってしまうし。照れ隠しに俯いて歩いていたらあっという間に家に着いてしまって。


 せっかくのチャンスだったのだから、もっとちゃんと顔をみておけば良かったと後悔してももう遅い。


 だけど収穫はあった。本当は目が悪くないってことを知ることができたし、あの分厚いメガネは素顔を隠すためのアイテムだった。


 せっかくイケメンなのになぜ素顔を隠そうとするのか。その理由はわからないけれど、他の女子生徒にバレたら争奪戦が起こるのは目にみえている。


 これは自分と彰くんだけの秘密。自分だけが彼の素顔を知っている……なんて特別感。


 浅見は高揚感に包まれ、うっとりとした表情を浮かべる。


 彰くんの素顔が他の女子にバレないように、何が起きてもあのメガネだけは死守しなければ。


 そう決意した浅見はキリッとメガネをかけ直す。


 だけど……あのメガネのせいでせっかくのイケメンがみれない。隠したいけどみたい。みたいけど隠したい。ああ、焦れるわ!


 悩ましげなため息をついては自分の体を抱きしめ、クネクネと身をよじらせて歩く浅見に、すれ違う生徒が不審な眼差しを向ける。


 だが浅見の目にそんなものは映らない。どうにかしてもう一度あの顔を拝めないものか。そんな考えで頭がいっぱいだ。


 それでついついメガネ外したら? なんて声に出してみたら、見事に断られてしまった。やはり彼女にしてもらわなければ!


 それにしても。


 改めて闘志を燃やす浅見は手もとの写真に視線を落とす。


 誰よこれ。本当にストーカーがいたとは思わなかったわ。ストーカーなんてぶっちゃけどうでもいいけれど、おかげで彰くんと距離が縮みそう。あなたには感謝ね。


 今日の帰りは彰くんと警察デートだわ!


 ルンルン気分で鼻歌を刻み、浅見は職員室のドアをくぐるのであった。





【後書き】


面白かった!次も楽しみ!という方がいましたら、その気持ちのぶん☆を染めて伝えてくれると大変嬉しく思います!


明日もぜひお楽しみください☆

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る