第3話 伝説と復讐者
そして今、そのような伝説を持つ男が青鯱の腕の中にいるのだ。
それに気づいてしまった青鯱は恐怖を感じ、すぐさまタロスを突き飛ばして距離をとる。
「おいおい勘弁してくれよ!」
タロスの存在に気づいた青鯱が弱気になり、そのようなことを叫んでいると…
「また人質をつくられると厄介だ……他は下がってくれ」
タロスは、他のクヌディカルの民を人質に取られるのを嫌がったのか、クヌディカルの民を全員引き下がらせた。その上で彼は、青鯱に近づいた。
「さて…犯罪者。ここで私達に見つかったのが運の尽き、大人しく捕まれ。」
その時、何を言うかと思えば、タロスは最初で最後の警告と言わんばかりに、青鯱に降伏するように促した。
「……」
その最終警告を聞いて一瞬青鯱は黙りこくってしまう。しかし、彼の答えは最初から決まっている。
「そんなことできるかよ!!」
そう、青鯱にはまだやるべき復讐があるのだ。だから今、ここで終わるわけにはいかなかった。
「そうか…ならばここで死ね」
その瞬間、殺意を剥き出しにしたタロスは、光と負けず劣らずの速さで瞬時に青鯱との距離を詰め最初からクライマックスな横蹴りを青鯱に対して放った。
この攻撃に対し、青鯱は人生の終了を表す走馬灯を見ていた。しかし、それと同時に破壊された祖国の事を思い出し、復讐を果たすまでは死なないという決意を心臓に刻みなおす。
そして、
パヒュン
青鯱は体をありえないほどの角度に反らせ、なんとか音速に近い蹴りを危機一髪でその攻撃を回避することができた。
「む?」
スパンッ
回避したその瞬間。青鯱は隙を見せたタロスの顎に鋭いブリッジキックを食らわせ、その時の衝撃でバック宙で距離をとりつつタロスに有効打を与えることに成功する。
バリンッ
その結果、タロスの銅兜が破壊され、彼のみすぼらしく生気のない顔が露になる。
あえてその顔を形容するのならば、その顔はまるでイタリアの博物館にあるような石像の顔ように見えた。
「は?」
その瞬間。タロスの素顔を見た青鯱は、武神とも呼ばれる男がこのような生気を全く感じない顔をしていることに意表を突かれ、つい気を緩めてしまう。
そしてその一瞬の隙にタロスは、青鯱に対して小石をぶん投げる。
ブアンッ!!
「う…」
しかしタロスの伝説を知っていた青鯱は、タロスが投げてくる石の脅威度を知っており、必死になって攻撃を避けようとする。
そしてなんとか彼は、寸のところで音速を超えるであろう小石を避ける事ができた。
と、思われたその瞬間。
グチャン!
いきなり青鯱の脇腹がえぐれてしまう。
「よ、避けたはず…なのに。……ハッ!」
その出来事に恐怖しつつも、青鯱は自身に起こったことに気づく。
それは、自身の脇腹をえぐったのは小石本体ではなく、そのときに発生したソニックブームによるものだということに。
そして、あの小石は音速を超える速度で投げられたという恐ろしいことにも彼は気づかされる。
「な、何て恐ろしい力なんだ」
その事実に気づいてしまった青鯱は絶望に飲まれかけてしまう。
そして、その様子を見ているタロスがその絶望しかけている青鯱に話しかける。
「気づいたか、さて、それを実感してもなお、降伏せず死のうと思うのか?」
「……」
今タロスが彼に話したのは本当の最終警告だった。
恐らく、この最終警告を無視して戦闘を続けようものならば、タロスは本気の本気で殺しにかかってくるだろう。
しかし、青鯱の答えはやはり決まっている。
「おれは…俺は…ここでお前を倒して前に進むだけだ!」
青鯱はタロスの本当の最終警告への答えを出すと、腰に着けていた銛を構えだす。
この行動は、青鯱も本気でタロスを殺しにかかるという決心の現れだった。
そして次の瞬間。青鯱はすぐにタロスとの距離を詰め、その手に持つ銛でタロスの露わになった顔面を突き砕こうと腕を伸ばす。
しかしその刹那…
パンッ!
いきなり銛と共に青鯱が真上にぶっ飛んだのだ。そして、
バコンッ!
「カハッ!」
隙を晒した青鯱は、タロスから放たれた鋭いアッパーカットを腹にぶちかまされ、また少し彼は上に飛ばされてしまう。
「クラーーーーシュ!」
その瞬間、出来た隙をまたもや突かれてしまい青鯱は、先ほどのアッパーよりも強烈なストレートを腹にぶち込まれ、吹っ飛ばされてしまった。
そして、青鯱はその凶悪な一撃に、兜の隙間からゲロ吹きながらふき飛んでいく。
そのような一方的な戦いを観戦していたクヌディカル国民は、武神タロスの本領発揮した姿にどこか信仰に近い気持ちを沸かせ、同時に圧倒的な力に恐怖を感じていた…
そして現在。タロスの一撃で吹っ飛んでいる青鯱は、ピンチな状況にもかかわらず。さっきは何で銛がふっ飛んだんだ?と先ほど何故体が上に飛んだのかについて冷静になって考えだした。
「...! まさか」
ザーーー
数秒のうちに自身に何が起こったかについて予想を立てた青鯱は、唐草のようになりつつもビーチに着地。
そしてゆっくりと立ち上がり、新鮮な空気を吸うためにゲロまみれの兜を取り外した。
「もう、これにかけるしかない」
そして、今度こそタロスを殺す決心をした青鯱は歩けない程のダメージを負っているはずだが、彼はなんとかバイクのマフラーに食いつく程の気合で、近づく度に意識が薄れつつもタロスの方にゆっくり歩いて近づく。
「オラァァァァァ」
そして、全体重をかけた銛をタロスの腹部に向かって放つ。
「馬鹿め」
タロスは先程と同じ攻め方をする青鯱に、またタロスも同じ方法で青鯱の攻撃をいなそうとした。しかし、青鯱の考えていることは、先程とは全く違うのだ。
グアン
青鯱は、タロスが防御を行う前に銛に回転を加える。すると、
ブウンッ!
その瞬間、銛が青鯱ごとドリルのように回転しだした。
「やっぱりか!」
青鯱が予想したタロスの防御方法とは簡単ではあるが、人間には到底出来ないタロスならではの方法。
タロスは青鯱に攻撃される瞬間。手に持っていた石ころを手首のフリックだけで投げ、武器を相手ごと上にふっ飛ばして隙ができたところをぶん殴る。
という、人間味をどこかに置いてきたかのような防御方法をとっていた。
そこで、青鯱はその防御方法に対して、銛に回転を加えることにより、小石の衝撃を受け流す。
その上に、逆にその力の流れを利用するという、誰もが考え付かないような対策を編み出した。
しかし、この誰もが考え付かないような作戦が、神をも殺す最大の策となるのだ。
「何!?」
タロスは自身の防御が対策されていたことに驚いて行動が遅れてしまい、青鯱の反撃を回避できず、その攻撃をその身で受けてしまう。
ギギギギギ
最初はタロスの銅の鎧が防いでいた。しかし、ドリルのように回転する銛はすぐに銅の鎧を砕く。
ブシュッ!
そこからはあっけないもので、超回転している銛によって、タロスの腹は一瞬にして貫通。そしてタロスはショックも合わさってか、動きを止めて膝から崩れ落ちた。
つまりこの瞬間青鯱は、武神と呼ばれ数々の伝説を作り出した男を殺したのだ。
しかし、まだ青鯱は依然ピンチなのには変わりない、なぜなら彼は現在進行形で足がもげそうなくらいの速度で回転しているからだ。
もし、この回転状態から抜け出さなければ、青鯱の四肢は吹き飛んで肉ダルマとなってしまい、復讐なんて到底できなくなってしまう。
かし、もしも上に吹っ飛ぶタイミングで手を離そうものなら、人類で初めて生身で大気圏に到達した者となる。
下に吹っ飛ぶタイミングで手を放そうものなら赤い水溜りが出来てしまうだろう。
そして、海の方に吹っ飛ぶタイミングで手を離せれば、生存確率がかなりマシになるだろうが、現在青鯱が負傷を負っている状況、運がなければ血の匂いにつられて来たサメたちのランチパーティーに参加させられてしまう。
「ぐっ!」
だが、やらねれば確実に死んでしまう、と考えた彼は、
バッ
超回転により周りが見えていなかったが、思い切って銛から手を離した。
命と、数々の思いが乗ったギャンブル、その結果……
バッシャン!
運の良いことに、彼はなんとか海の方に吹っ飛ぶタイミングで手を離すことに成功し、海中に着水することに成功。
「やったぞ! 俺は勝ったんだ!」
彼はその時、神と運命から勝利した喜びでつい、海中だというのに声を張りはげてしまっていた。
そして勝利の余韻に浸ることなく青鯱が陸に上がると、そこには完全に怯えきったクヌディカル国民と、銛で腹を貫かれているタロスがいた。
青鯱はゲロまみれの兜と銛を回収し、猛ダッシュでこの国から逃走する。
*****
青鯱が走ってクヌディカルを抜けようとするその一方。
そこは薄暗くどこか不気味な雰囲気が漂う研究所。
プルプルプル
静かな研究所内で電話の着信音が鳴り響く。そこで
カチャ
「もしもし?」
一人の声が枯れている男が受話器を取った。
「タロスが死んだ」
受話器からは、タロスの死を報告する女の声が聞こえる。
「はぁ、面白くない冗談はやめてください」
「兜をかぶって銛を持った男だ。」
男は最初。その女のいうことをなにかの冗談だと捉えていた。だけども女は淡々と続ける。
「タロスは腹を銛で貫通、そしてここに来たよ。」
「!?」
「ここに来た」その言葉を聞いた男は、女の話が冗談ではないということに気づく。
「なるほど、冗談ではなさそうですね。でも、問題は誰がやったかです。」
しかし男は驚くことなく、女から情報を聞こうとする。
「場所も人物像も、もうこっちで突き止めている。」
そして驚くことに、なんと女は、タロスが殺されたのはついさっきというにも関わらず、既にタロスを殺したのが青鯱だということを知っていたのだ。
「やはり情報の伝達が早いですね。で、その人物は今何処にいるか分かりますか?」
「あぁ、そいつはお前の研究所がある「ダ・ハルガント」に向かっている。気をつけろ」
「こっちに? なるほど了解です。」
ガチャリ
話を一通り聞いた男は、持っていた受話器を置いて電話を切った。
「今頃こっちに来るということは、デバガルタからの刺客かな? 都合がよさそうだな。」
そのように呟くと男は、どこか不気味な笑みを浮かべてタロスを殺した男。もとい青鯱の到着を暗い研究室で待つ。
*******
青の願い 猛木 @moumoku
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