第2話 クヌディカル上陸
出航5時間後
ドン!
「うおっ!?」
船は何かに衝突し、考え込んでいた青鯱を驚かせる。
「着いたのか?」
そして青鯱が船から頭を出すとそこには船着場があり、彼は目的地かと思いさっさと上陸し、持っていた地図を広げた。
「ここは?」
「……まずいな」
彼はその時、ここが隣国のクヌディカルという南の国だと言うことに気づき悪寒が走る。
何故ならこのクヌディカルという国、異常なまでのムラ意識と、外国人を攻撃してもよいという法律があるため、よそ者には強力な敵意を向けてくるのだ。
つまり、この国の人間全員が外国人である青鯱を襲いにくるということ……
一刻も早くここから出ないとまずいな。と思った彼は足早にこの国から脱出しようと歩き出した。しかしその瞬間…
「おいおまえ、なに逃げようとしてんだ?」
青鯱は男に声をかけられ、地図から顔を上げた。
「ッ!!??」
何とその時。青鯱が気づいた時にはすでに、彼はクヌディカル国民に囲まれていたのだ。
「くっ」
「さぁいくぞお前ら!」
「殺せー!」
そして青鯱は有無も言わさず襲われそうになる。
しかし、もうやるしかないと、腹を括った彼は、戦闘にはいってすぐに一番鈍そうな巨大な鎧を着込んだ男に掴みかかり、首を絞めて人質にする。
この時、青鯱は自身の行動に、我ながら引くくらい卑怯だな。と思う。
「お前ら、こいつを殺されたくなきゃ俺に近づくな!」
しかしこの状況において、手段について四の五の言えるような状況ではない。と自分に言い聞かせ青鯱は、一歩ずつゆっくりと自身が乗ってきた小船に近づき乗り込もうとした。
「!?」
しかしその瞬間、とてつもない胸騒ぎが彼を襲う。
「な…なんなんだ?」
この畏怖すら感じる胸騒ぎに、うかつな行動ができないと思った青鯱は、この胸騒ぎの正体を確かめるべく、足を止めてクヌディカルの民の顔を一つずつ観察することにする。
「………」
するとクヌディカルの民が、青鯱が人質にとっている人物の方をじっと見つめているのが分かった。そのため人質が何かしているのかと考えて人質のほうに目を向けるが…
「………」
この男たちはじっと見つめる以外のことをしていない。その上何かをしようとも思っていないようだった。
理解し難い状況に陥っていた青鯱だが、相手が来ないのならば好都合。彼はこの身に現在進行形で感じている胸騒ぎを自分の勘違いとして考え、小船の方に歩きなおす。
しかしその時、クヌディカルの民の一人が呟く。
「タロス様は一体何をしているんだ?」
と、その瞬間、‘‘タロス‘‘という言葉を聞いた青鯱は、ハッと何かを思い出してしまい、水面に浮く木の葉のようにピタッ、と小船に向かう足を止めてしまった。
「タ、タロス…?」
そして声にもならない声を出しつつ、青鯱は気づいてしまう。
今この腕の中にいる男こそがこの胸騒ぎの正体であり、この国に来て絶対に相対したくなかった人物。タロスであるということに。
この男の名はタロス、クヌディカルを戦争の暴炎から守り、クヌディカルの民からは武神と呼ばれる男。その男の正体を悟った瞬間、青鯱は脳がまっさらになるかのような感覚を覚えてしまう。
なぜなら彼は、クヌディカルの武神タロスの伝説を知っていたからだ。
********
まず有名なのがこれらの出来事。この話は4年前ほどに世界中に広がり、人間を超越した者の存在を世界に知らしめ、タロスという名の神の名をこの世に轟かせる事件となった。
タロスは天候を操る
ある時、クヌディカルは長期的な最悪の悪天候に見舞われてしまっていた。
その悪天候の中、強風によって家は破壊され、鉄砲雨によって土砂災害が起こった。
その結果としてクヌディカルの民は、クヌディカルという国が創設されて以来初めての超凶作に見舞われ、家畜共々栄養失調に苦しんでいたという。
当然このような国家の存続がかかる出来事に、クヌディカルは他国に支援などの助けを求めたが、どの国もクヌディカルを見てみぬ振りをしていたのだ。
その上、逆に弱っているこの国に攻め込むという人道から大幅に外れた行為を行う国さえも現れる始末。
このような出来事が重なりに重なり、この国は終わった。と誰もが考えていた。
しかしその絶望の最中。この国に銅の鎧を着込んだ男が現れた。
最初は、誰も彼のことを気にも止めていなかったのだが、いきなり現れたその男は、家一軒程の大きさの巨石を、空に向かっていきなりブン投げたのだ。
その瞬間
パヒュウン
なんと、この国を襲った風と雨雲が消えたのだ。
その様子を目撃していた国民達はお祭り状態、タロスを主役とした祭りを始めようした。
しかし何故かタロスは、彼らと言葉を一切交わすことなくどこかに向かっていったという。
にわかに信じられない話だが、タロスが風と雨雲を消し飛ばした所をクヌディカルの民が実際に目撃しているのだ。この時点で、青鯱がタロスの超人的な力に畏怖の感情を覚える理由にもなるのだが、タロスはこれよりも恐ろしいことを成していたのである。
暴虐非道なタロス
その後、タロスが向かう先は戦場だった。そこでは疲弊しきったクヌディカル兵が、自国に侵攻させまいと一所懸命に戦っていた。
正直なところ、皆この戦いには勝てないということは頭では理解していた。しかし、尽きることのない愛国心が彼らを諦めさせることなく突き動かしていた。
だがどれだけ自国を守ろうとしても現実は非情なもの、相手軍はどんどんクヌディカル領土に進軍して行き、大虐殺を行う。
そしてそのような状況の最中、カメラで戦場を覗いていた相手司令官は勝利を確信し、ある実験を行おうとしていた。
「フッフッフ、これでクヌディカルは終わりだな。さて、実験がてら、ここでアレ使ってみようではないか?」
「ハッ!」
司令官の命を受けた隊員はとあるネジをひねった。その瞬間、相手兵の死体がぶるんと震え、体の関節をカタカタと動かしながら傷を癒し立ち上がった。
いや、体型や顔がそれぞれ変わっているところを見るに、立ち上がった。と言うより、生まれ変わった。と言った方が正しいだろうか。
その生まれ変わった相手兵は、いくら攻撃されても死なない強靭な肉体、相手の弱点を的確に突く分析能力、銃を発砲するたびに銃の命中精度が向上する学習能力を持ち合わせた最強の兵士だった。
その最強の兵士もとい、生まれ変わり兵によって、クヌディカル防衛陣は数時間足らずでほぼ全壊。
「こ、これが我が祖国の技術か…なんて、なんてすばらしいんだ!!」
その様子に相手司令官はご満悦の様子。
しかし次の瞬間、誰もが予測できなかったことが起き始める。
グチャッ!!
その時、生まれ変わり兵の一体の頭が吹っ飛んだ。そして一体、また一体とどんどん生まれ変わり兵の頭が吹っ飛んでいったのだ。
「な、何が起こっているんだ!?」
その出来事に全員戸惑いを隠せなかった。その頃、一方のタロスはというと…
「………」
ただ黙々と、遠い場所から戦場に向けて小石を投げていた。
そしてタロスが小石を投げるたび、クヌディカルを襲う兵たちの頭が吹っ飛んでいった。
そう、恐るべきことにタロスはなんと、そこらへんにある小石を投げ、生まれ変わり兵の頭をどんどんふっとばしていたのだ。しかし。
ブルンッ
その度に生まれ変わり兵は生まれ変わり、敵の数に変動は起こらない。その様子を見たタロスは埒が明かないと考え、戦場に向う。
「耐えててくれ」
そしてタロスは祈るように小声で呟き、走る。
数分後
バシャーン
戦場に着いたタロスは灯油を被った。そして、
ブォォォオン
なんと自身を燃やし始めたのだ。
しかしタロスは苦痛の表情を見せること無く、近くにいた生まれ変わり兵の胸を殴り、ティッシュペーパーに爪楊枝を刺すかのようにいとも簡単にその胸を貫通させたのだ。
そして、貫通させたその手には、その生まれ変わり兵の心臓が握られていた。
ドクンドクンドクン
その心臓は、まだ体外に出されたばかりで、鼓動を打ち続けていた。
「クラーーーシュッ」
そして次の瞬間、タロスは鼓膜を破壊せんとする程の大声を発しながら、相手にはまっている自身の腕をその鼓動打つ心臓ごと引き抜いた!
バタッ
倒れた後、また生まれ変わろうとしていた生まれ変わり兵だったが、何故か今はただピクピクしているだけで、立ち上がる気配が全くみせなかったのだ。
「やっぱり、生まれつきは直せないようだな。」
タロスはこの時、むやみやたらに攻撃しているのではなく、生まれ変わり兵に対して策を講じていたのだった。
「復活する前に体の傷を塞いでしまえば…それは生まれつきになる。」
タロスは燃えたぎる炎によって真っ赤になったガントレットを見ながら、悶えている生まれ変わり兵にそう言い放つ。
「焼灼止血法を使えば、簡易的だが傷は塞がるだろ?」
タロスはなんと、敵を数回攻撃しただけで最強兵の弱点を見つけてしまっていた。
それは相手の臓器を奪ってから、燃え滾る自身の銅の鎧で傷口を塞ぐというもの。
「さて、彼らを苦しめた罪、償ってもらうぞ」
タロスが最強兵の弱点を見つけてからの逆転の様はまるで、ババ抜きで序盤から中盤までカードを1枚も揃えなかったのに、終盤になると一気に全てのカードを揃えて勝ち上がるギャンブラーの様であり。
圧倒的な力で最強兵をなぎ払い、クヌディカルを敵国から守りきったという。
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