ところで皆さん、忘れてませんか?
閑話.一年に一度、一生に二度
「うぇーい、オメー」
「おめー……」
「おめでただねぃ!」
「言い方が誤解を生むわね……。ま、良かったのじゃないかしら?」
「改めて、おめでとう!ススム君!」
「恵んでやる!有難く受け取るがいい!」
「マンルイにムササビ鳴くッス!」
「“感涙に咽び泣く”だ八守ィ!齧歯類に野球をさせるな!」
「それッス!」
「おめっとさん。また一年老けたな。お前もすぐにこっち側だ」
「パイセン、年齢への捉え方がオジ過ぎっしょ……」
「みんな、ありがとー!!」
「コーレスするアイドルみたいなテンションだねぃ」
10月10日。
俺の誕生日であり、そして……ああ、いや、その話は今は良いだろう。折角めでたいムードなんだし。
とにかく俺が生まれてから16年目という特別な日と言う事で、トクシメンバーからはそれぞれ小物を頂戴する事となった。基本は菓子類。
小学生以来、実に8年ぶりの、友達からの誕生日プレゼントである。それもこんなに沢山!
あ、でも、ウィッグ等の女装セットを持って来た狩狼さんは出禁という事で……いや「ワンチャンー……?」じゃないよ。微塵もゼロだよ。スマホをしまえ。カメラモードをオンにするな。ミヨちゃんは期待の眼差しを消灯して。
意外にも、トロワ先輩からもプレゼントがあった。実は八守君の時もそうだった。
「こ、この贈与と、士気が上がって戦闘が円滑に進む事に相関があるなら、やらないと私の損になるってだけよ」
と言いながら、オレンジピールのチョココーティングみたいなのをくれた。
またまた~、先輩ってば素直じゃないんですから~!
と肩を組む勢いでウザ絡みした結果、グーも一緒に頂きそうになった。
これでも剣じゃないだけ優しくなった判定(当社比)。
その後、授業開始5分前にやって来たシャン先生なんか、教室にホールケーキを持ち込んで、切り分けて全員に配り始めた。日付を把握してなかった八守君や、夏休み中が誕生日だった狩狼さんを祝えなかったのを実は気にしていたらしく、気合を入れ過ぎて加減が分からなくなったとのこと。
職員棟の冷蔵庫を使ったらしいが、怒られなかったのだろうか?と思っていたが、普通に星宿先生から説教を喰らったらしい。そりゃそうだ。
そんな中、ミヨちゃんが用意してくれたのは、矢張り食べ物だったのだが………
これについては、昼休みに話が戻る。
「はい!ススム君!どうぞ!」
「ありがとう……!本当に……!ありがとう……!」
「泣く程!?」
いやあ…!美少女の手作り弁当を昼休みに食べるとか、全男子の夢でしょう……!
「食べるのが勿体ないくらいだよ。レジン加工して飾りたい」
「ちょっと猟奇的な発想!じゃなくて!もう!折角作ったんだから、味の感想聞かせてよ!これから毎日食べるんだから、一々大袈裟に受け取ってたら疲れちゃうよ?」
「そ、そうだよな!うん!い、いくぞ!いただきまーす……!」
俺は意を決してエノキのベーコン巻きを箸で掴み、形を崩さないようそっと運んで口に入れる。
「えへへへ……、ど…どうかな……?」
「う、うまい!おいしいよ!凄く!」
「本当?良かったぁ~」
なんかすっごい力が抜けた顔をしている。いやあ、このパリパリ感と言い、よく染みた味と言い、こんなに料理上手なら、そんな怖がる事も無いと思うよ?間違いなく美味しいから。
「すごいよ!実は料理好きだったり?」
「そんなそんな、私なんかまだまだだよ」
両手の指をモジモジさせながら、頭を傾けて照れるミヨちゃん。
次に彩りで目を楽しませてくれる、ニンジン・ブロッコリー・カボチャの温野菜サラダにも手を出す。これもうまい。
「そ、それは野菜が元から美味しいからで……でへへへへ……」
ミヨちゃんの顔がどんどんだらしなくなってる気もするが、誰かに喜んで食べて貰えるというのは、それだけ嬉しいものなのだろう。彼女の幸せの一部になれるのなら、俺も毎日だって付き合——
「ん?待って?『毎日』って言った?」
「え?」
「え?」
「え?うん」
「うん?え?」
ちょっと整理しよう。うん、整理しよう。整理するべきだ。
「ミヨちゃん、明日からもお弁当作ってくれるつもりなの?」
「うん、学校で会う平日は」
「……でも、これって、誕生日プレゼントだよね?」
「ううん?違うよ?」
「あ、あれ?でも俺の記憶だと、誕生日にご飯作ってくれるって話だったけど……?」
「うん。だから、はい」
「はいありがとう………?………??????」
整理整理。整理が必要だから、整理しよう。そうだな、整理を整理すると。
「ご飯を作る事が、誕生日プレゼントじゃないの?」
「贈る物は別で用意してるね」
「俺の記憶だと………」
「そう言えばススム君、もう少しで誕生日だね!」
「あ、うん、ありがとう」
「誕生日プレゼント何が良いとかあるかな?」
「うーん、特に拘りとか無いなあ……」
「そっかー、食べ物とかでも良いかな?」
「うん、全然オッケー!」
「そっかそっか、分かった!それじゃあ……大丈夫かな」
「大丈夫って?」
「ススム君!お昼にお弁当作ってあげるよ!私の手作り!」
「ゑっ!?……ゑゑッッッ!?」
「あんまり、嬉しくない、かな……?」
「全然嬉しい!海よりも深く静止衛星よりも高く嬉しい!」
「じゃあまずは、誕生日のお昼を楽しみにしててね!」
「ありがとう!本当にありがとう!」
「最敬礼が出る程!?」
「………お弁当がプレゼントとは、言ってない…?」
「一言も口にしてないね」
「『まずは誕生日のお昼』?」
「うん、『まずは』、だね」
「『お昼にお弁当』………あ、いつのお昼とは言ってないのか」
「そうそう」
「………」
「解決だね!」
解決………解決………?俺は今迷宮の中だけど………?
「なんか、詐欺に遭ったみたいな感覚が……」
遠慮されないよう、先んじて言質取られてた?話術というか詐術というか。
「気のせいだよ!それともススム君は、私のお弁当、やっぱりいらない?」
「それは全然いる!んだけど、毎日はミヨちゃんに悪いんじゃあ……」
「そんな事ないよ!私、ちょっとワケあって、料理を上手くしておきたかったんだ!だから、練習台として協力する、くらいに思ってよ!」
「そ、そうなんだ……」
まあ、俺にとっては良い事づくめだ。本人たっての希望、という事なら、何ら拒否する理由は無い。と言うか本来なら俺が足に縋りついてお願いするような事案だ。
(((絶対にやらないでくださいね?
やってないのに!?想像だけで!?思想犯を罰するのはやめろぉ!
「ほらススム君!どんどん食べてよ!感想聞かせて!」
「よ、よぉし、そういう事なら、俺も食レポを頑張る…!」
「それは別に良いかな」
「なんでそこだけそんな冷徹なの!?」
確かに俺の食レポ、ススナーから壊滅的扱いを受けてるけど!でもだったらなんで俺を味見役にしてるのさ!?
と、釈然としない事もあったが、肉団子を口に入れたら光の速さで忘れ去った。
う、うめぇ……、あったけぇ……。これが手作りの“あたたかみ”………。
(((どうしてあなたが言うと、こう、悍ましくなるのでしょうか?減点です)))
「ススム君は食べてるだけで100点だから!」
「いつの間にか謎審査員制度が定着してる……」
ちなみにプレゼントの方は、それなりのお値段がするブランドの、耐久性がクソ高い潜行用水筒でした。
とても役に立つし大変嬉しいけど、莫大な出費への申し訳なさが勝る……!
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