292.またしてもろくでもないアイディアが進行中 part2
「そいでしたら、何の滞りもナシでこちらにいらっしゃると言う事で、宜しいですやろか?」
「そうだね、遠征への参加資格の剥奪、或いは自主辞退といった事は聞いていない。前々から彼に興味があるって言っておいたから、無言で
丹本の自社建築、その内部の板張りの部屋。ちょっとした宴会場のような広さである。
座布団の上で正座する青年が、横に長く端から端までを遮り、全体を二分横断する御簾の向こう、
「僕はあまり、彼らと直接会う機会は多くないだろうから、応対はほとんど君達、政十の所のみんなに任せるよ。明胤は優れた学園だ。良い刺激になると思うよ?君も聞かされているだろう?」
「えー、えー、そりゃあもう、先生方もはしゃいどりますわ。これがまたまるで生徒側みたいな顔つきで、自分らが制する側でワシらが楽しむ側てこと、分かってるのか不安なるんですわ、あれ」
長い歴史を持つ家系、丹本潜行界のトップである貴人を前にして、まるで物怖じせず友人に愚痴るような語り口の彼は、同席している巫女から不敬と窘められないのもあって、妙に大人びた大物のように見えた。
高等学校側の人員でなく、生徒の一人に過ぎない彼が選ばれた事も、その特別性を強く演出していた。
「壌弌さんトコと三都葉さんトコは、何かしら茶々を入れて来よったり?」
「しっかり横からクロス入れて来たよ。『彼は最早本人が望んだからと言って、司法や行政からこれ以上離す事は許されない』、だってさ」
「潜行者の総本山がおわすこちらから離しといて、しかも国民の自由意志を無視ですかあ。困りますわあ、これだから東の田舎モンは」
「こらこら、四都の仲間じゃないか。いきなりPVP気分はダメだよ?」
目尻から渦巻き状のアイラインを引いた青年は、その言葉を確かに受け取った上で聞き流す。顎を曲げた指で挟む物思い仕草と、苛立ちや戦意の混ざった舌なめずり。今はまだ自制が利いているが、問題の人物を目前にしたら、どこまで噴き出るか本人にも分からない。
「ま、小猿1匹コロリと転がすだけで、ガッポガッポですさかい。精々張り切らせて頂きますわ」
「そうしてくれると有難いね。成功すれば、行政の勝手に牽制する
「『四都の仲間』はどこ行ってんねん」
「親しき仲にも礼儀あり、フレンドと言えどみんなライバル、さ」
「食えないおっさんやわ~」、
青年は改めて座を直し、手を床に付いて辞儀をする。
「では、
「じゃあ、そのように」
カミザススム勧誘勢力。
新チャンレンジャー一時参戦である。
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「こ れ で す の!!」
「なんじゃ一体!?」
閉店した回転寿司屋の店舗内。
そこを買って隠れ処の一つとした、知性ある
勝手にレーンを稼働させ遊んでいる小学生男児と、その上をルームランナーのように走る道化は話す気ゼロ。
よって聞き手は一人しかいない。
店の中心、板前スペースに設置された、テーブルと椅子を組み合わせた玉座の上から、金髪の童女がうんざりしたように問う事になった。
「思いつきました!思いつきました!思いつきましたのオオオオオオ!」
支離滅裂気味な長身ゴスロリ女の高域奇声からは、何の答えも戻って来なかった。
「メガサウリア!!コラこのフリーク!偽装も隠蔽も完璧の自負はあるが、それを差し引いても周囲に無頓着過ぎるわ!言いたい事があるなら順番に、一つずつ、静かに言え!」
「オオオオオオオオ!」
「オヌシら今すぐこのオペラ風味騒音公害を止めろ!」
童女が命じたその時、言われた二人はレーンの上で皿乗りジャグリング輪潜りに夢中であり、何一文字も返事を示さず、他ならぬ彼女が会話しなければならないと知らしめた。
「これ!これこれこれ!これぇっ!」
彼女が指し示すのは、事前に童女が配布しておいた共有用資料、例の“寵愛対象”のスケジュールであった。
そこに書かれた時間軸の一箇所、10月の中旬から下旬に掛けて、両方向矢印が伸びている。「深級遠征」「対象参加確定」、その下にはそう書いてあった。
「ワタクシ!思いつきましたの!ここなら舞台にピッタリですと!」
「はぁ……?」
やれやれと息を吐く童女。
「その硬さばかり立派な頭を
「考えましたの!」
「ほうかほうか、偉いのお?じゃがもう少し考えよ。確かに、外にリアルタイム配信はせんだろうから、一般大衆からは隠れられるじゃろう。そこは良い気付きじゃ。じゃがな?通常と比べ平均能力の高い集団が、奮って
「目撃者ゼロなぞ不可能じゃ」、
彼らは数と連携で、明確に人類より劣っている。存在自体が門外不出。それに素人でない連中に、ついこの前補足された事も確かだ。これ以上波を荒立てたくない。
「妾達はただ強く叩いて回れば、将来安泰というわけではないのじゃぞ?軽挙妄動を可能な限り慎み、ここぞ!を見抜き
「何の話をしていますの?」
「——なんじゃと?」
童女はゴスロリ女の目を見る。
それは確かに、言い争いを始める者のそれではなく、噓なく本気で理解できないというキョトリとした顔であり、
「ワタクシが申しているのは!あの器を試し!上手く運べば他を見つける機会が来たということですの!」
「なぬぅ……!?」
良くない予感に、眉根が接近し続ける童女。
「生き残りがどうのですとか戦争がこうのですとかイリーガルの未来ですとか知ったこっちゃねえですの!お姉様が全てにおいて優先される!これだけは確かな事ですの!」
彼女はドォッと立つのと連動して顔を上げ、
「こうしてはいられませんの!断固として断行する為にも!現地の下見が必要ですの!皆様失礼致しましたですの!」
反論の隙間を埋めるような捲し立てと共に何処かへ消えて行った
「ふぅー……!」
あれが“バイタリティ”。周囲がどうあれ自らを貫く為のリソース、それこそが。
あれは童女がもう持っていない物だ。「寄る年波には敵わぬのう……」、そう呟かざるを得なかった。
「仲間意識も無いとくれば………、妾、己で己の頭痛のタネを増やしたのやも、しれぬなあ………」
背もたれにぐでりと海老反りで倒れ込み、毎度の災難に不平を垂れる。
「それも一興。それが“
元より無い根を、下ろす余所者。
風吹く先を
そこでの別れも道理の内だ。
「それとサルタドール。海の
「え?……たのしーね!」
「
「ドードー!ドードー!アハハハハ!」
「ああ……そう……、そうじゃな……」
「何ー?なあにぃー?」
「オヌシがそれで良いなら何でもいい事じゃ。気にするでない」
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