290.「夏休みデビュー」ってこれかあ!いやちょっと時期がズレてない?

 教室に知らない人が居る。

 それも教壇側じゃなく、生徒が使う席の、前から2列目の真ん中に座っている。

 丸刈りで眼鏡、制服もビシっと着こなしている、真面目で寡黙そうな人だ。


 また決闘の要請とかだったりしないかな?怖いんですけど。

 折角消化し切ったと思ったのに、次から次へと厄介事ばかり転がりこんで来やがる…!どうせなら富とか名声とかも一緒に歩いて来てくれるんなら嬉しいんだけど、最近の新しい出会いは8割が敵だ。8年前からカンナに会うまで、9割9分敵だっただろって?それはそう。


 どーしよっかなー……?やっぱりニークト先輩が来るのを待って、その後ろからこっそり気付かれないように入ろっかなあー…?授業時間が始めたら、流石に居座るわけにもいかないだろうし。でも根本的解決にはなってないよなあ…。授業終わりに即行ダッシュで待ち伏せられたら回避不能だし。それに最近のニークト先輩、体積の減少と共に横のカバー範囲も縮んじゃったから、前ほど上手く隠れられなくなってるんだよな。乗研先輩の方が良いかな?でも乗研先輩は怒るよなあ…。いやニークト先輩も怒る事は怒るんだけど「おい何だとっとと入ってこいや面倒くせえ!」「はい!すぐに!」


 反射的に返事からの入室を決めてしまった。ちょっと!乗研先輩!いきなり怒鳴るから……あれ?乗研先輩?


 って言うか今の声、教室の内側から……「入ってこい」って……


「乗研先輩!?!???」

「なんだ。俺以外の何に見えるってんだ」

「真面目な学生に見えます」

「ぶっ飛ばすぞテメエ」

「ご勘弁を~……!」


 う、うそおっ!?休み中に全然姿を見ないと思ったら、イメチェンしてたんですか!?


「め、眼鏡は?伊達のおしゃれメガネですか?」

「何でだよ普通に度が入ってんだよ」

「って事はあのサングラス、度入りだったんですか!?」

「そこそんなに驚くところかよ。どうでもいいだろうがよ」

「い、いやあ、ギャップ凄いですねえ…。なんかカッチョ良く見えます」

「これまでが微妙だった、ってか?」

「どちらかと言えば怖かったです」

「お前はそういう奴だったな」


 でも目つきは相変わらず悪いですね。口調もそのままだし。ヤバい。態度不良な優等生みたいなジャンル、カッコいい…!胸が高鳴る…!これは一体「ススム君オハヨ!教室ぶり!」「いや違うんだ!」「え?何が?」


 しまった、謎の後ろめたさが反射的に口から飛び出してしまった。


「い、今のはそういうノリって言うか、勢いだけってイイマスカ……」

「ふううううぅぅぅ~~ん……?」


 大分怪しまれてる。鼻息が当たるくらいすぐ横から観察されている。あ、汗臭いと思うから離れて…?冷静に考えたら今の流れで浮気男みたいな罪悪感を抱かなきゃいけない理由が分からない……!おかしいじゃん……!というわけで俺はドンと構える事にした。


「先輩!イガグリ頭触っていいですか!」

「どうしてそうなるんだよテメエはよ」

「あれっ!?乗研先輩!?」

「だから俺だっつってんだろうが」

「ありっ!?ノリっち先輩!?」

「なんでわざわざ2回目を追加した!?」

 ミヨちゃんと一緒に来ていた訅和さんがいつもの悪ノリを見せる。

「カミっちはまたノリっち先輩口説いてる感じ?」

語弊ごへええい!」

 違うからね?


「って言うか先輩!聞いてくださいよ!俺仮にもチャンピオンに模擬戦で勝ったんですよ!?スゴくないですか!?スゴイですよね!?喝采を期待して登校したら、なんかみんな全然話し掛けてくれないんです!こっちから声掛けようと思ったら変な音出しながらカニみたいに逃げてくんですよ!」

「そりゃあ、テメエ、あの映像は俺も見たが……」

「俺が物理的に掌ドリルしたんだから、みんなも掌返してくれていいと思うんですけど」

「自分の手首を躊躇なく破壊して兵器運用する馬鹿とお近づきになりたい奴がいると思うのかいのち軽男かるお!」

「普通に怖いッス!どんなセーシンジョータイしてるッスか!」

「あ、ニークト先輩、八守君」

「「うおっ!?乗研(さんッスか)!?」」

「一々そのリアクションしなきゃいけねえのかよお前らはよ!」

「で話戻すんですけど」

「その話続けなきゃダメかねぃ?」

「『なんて勇敢なんだ!』みたいに感動する人が居ても良くないかなあ?」


 確かにガネッシュさんの本領の魔具使用はナシのルールで、しかも途中はちょっと待ってて貰ったりもしたんだけど、それでもやれる人間って中々いないって、自慢出来る話だと思ったんだけどなあ…?

 披嘴先輩と丸流先輩にも廊下で会ったけど、なんか死ぬほどデカいリアクションをされた。二人して「なんで?」って、それはこっちのセリフだよ。何その幽霊を見たみたいな顔。もっと祝福をくれたっていいジャン!


「テメエは今まで爆弾みてえな扱いだったが、これで晴れて正式に爆発物認定だ」

「ナンデ!?心意気に打たれたりとかないんですか!?」

「それで近付いて来る奴は軒並み危険人物だ!もしそういう人間が現れたなら聞かせろ!ブラックリストを作るからな!」

「ヤセニクがまーたイミフなこと……パイセン!?」

「びびったー……」

「もう突っ込まねえからな?」

「あら、鬱陶しくなくなったのね。あの髪型がチラつくだけで不愉快だったから助かる……ちょっと?なんでそんな満足気なのかしら?」

「トロワ……そう言ってくれる奴はお前だけだ……」

「何が!?」


 みんながあまりにしつこく天丼するものだから、空気を読まず嫌味を言ったトロワ先輩の好感度が上がるというバグみたいな事が起こった。事実は小説やゲームよりなんとやら。


「とりあえずみんなもっと褒めて褒めてホラ!」

「調子に乗るなネジ外れチビ!」

「ススム君はやる事が極端過ぎ!反省して!」

「やーい!バーサーカー!」

「カミザ、あーしもあれはイカちいって思うわ」


 俺の味方はいないのか!?


「よーしお前ら、始めるぞー?」


 と、そこにシャン先生が時間通りに……ちょっと遅れて入って来た。


「お、カミザ、日曜はスゲー事になってたな?見てたぜ?」

「え、そうなんですか?」

「何せミツが呼ばれちまったからな。教師として注意するべきところは、どうせあいつが言ってるだろうから、俺からはシンプルに一つだけだ」


 「良くやったぜ。根性を見せたな、カミザ」、

 先生のゴツい手がそう言って俺の頭を撫でる。

 せ、せんせええええええ!!


「えへへへへへへ……」

「敵は手強いですなあ、ヨミっちゃぁん?」

「そろそろグー出るよ?こもりちゃぁん?」

「ごめんて」


 さて、今日からまた通常授業、と言いたい所だが、実はちょっと気合いを入れるべきタイミングである。


「よおし、お前ら!分かってると思うが、深級遠征があと一ヶ月に迫って来ている!」


 そう、甲都への修学旅行が近いのだ。


「お前らの場合、他の教室より少人数になるからな!残りの時間、万が一が起こらねえよう、一人一人を百人力にしてやるぜ!」


 こう言うと真面目に考えてないように聞こえるかもしれないけど、実は俺、結構楽しみだったりする。


 大勢とお泊り会、う~ん、どんな感じになるんだろ?

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